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カスタマーサクセスはやめとけ?カスタマーサクセスマネージャー(CSM)の仕事の全貌を解説

作成者: 川村 拓司(かわむらたくじ)|2025/01/22 22:09:17

「カスタマーサクセスってよく耳にするけど、実際はどんな仕事なの?」――最近、SaaS企業やスタートアップを中心に注目されるこの新しいポジションに興味を持っている方、あるいは採用を検討している企業の方も多いのではないでしょうか。カスタマーサクセス(CS)は、単なるアフターサポートや追加営業とは一線を画す“顧客と企業の成長を両立させる”職種として急拡大しています。一方で、「カスタマーサクセス やめとけ」「激務らしい」という声があるのも事実。実際には、CSの現場でどんな業務をこなし、どのようにキャリアを積んでいくのか、気になっている方も少なくないでしょう。
本記事では、カスタマーサクセスの基本概念から必要なスキル、キャリアパス、転職・採用の際に見極めたいポイントまで、幅広く解説しています。これからカスタマーサクセスマネージャー(CSM)を目指す方も、組織にCSを導入してさらなる成長を図りたいと考える企業担当者の方も、ぜひ最後までお読みいただき、CSの可能性と現実を掴んでいただければ幸いです。

カスタマーサクセスマネージャーってどんな職種?

そもそもカスタマーサクセスって何?

近年カスタマーサクセスが普及してきたと合わせて「カスタマーサクセス やめとけ」など、ネガティブな意見を目にすることも増えています。一方で、「カスタマーサクセス 向いてる人ってどんな人?」「カスタマーサクセスの将来性って何?」とポジティブに興味を示す方も多くなりました。実は、カスタマーサクセス(以下CSと略)はSaaS領域を中心に急速に拡大し、企業規模や業種を問わず重要視されるようになっています。

では改めて、カスタマーサクセスとはどのような役割なのでしょうか。米国のカスタマーサクセス協会では、「顧客と企業の持続可能で実証された収益性を最大化するための、長期的で科学的に設計され、専門的に指揮された事業戦略」と定義しています。一見すると難しく感じるかもしれませんが、簡単に言えば「顧客が自社製品やサービスを通じて成功を収め、それが結果的に自社の売上にも貢献する」という考え方です。

たとえば、サブスクモデル(SaaS)を採用している企業では、一度契約してもらうだけではビジネスとして不十分です。解約(チャーン)を防ぎ、継続的な契約更新やアップセル・クロスセルを進めていくことが、長期的な成長につながります。そのためには顧客に価値を感じ続けてもらう必要があり、そこに積極的に働きかけるのがカスタマーサクセスの役割です。

もう少し具体的に説明すると、顧客が抱える課題を理解し、目指すべきゴールに近づくために自社が提供できるサポートを最大限に活用してもらうことがCSの本質です。製品の使い方や導入方法を手厚くフォローするだけでなく、顧客との関係性を深めることで新たなニーズや課題を発掘し、さらなる価値を提供します。その結果として顧客体験が向上し、契約更新や追加購入、他部署への紹介といったかたちで企業の売上拡大へとつながっていくのです。

また、CSが重要視されるようになった背景には、競合が激化し、顧客が他社製品に乗り換えやすくなったという環境変化があります。インターネットを通じて簡単に製品情報が手に入り、類似サービスも次々と登場する今、顧客との継続的な関係を築くことが企業成長のカギとなっています。優れたCSが存在する企業は解約率が低く、安定した収益を確保しながら成長を目指すことができます。

このように、カスタマーサクセスは「契約を獲得して終わり」ではなく、「顧客とともに長期的な成功を目指す」姿勢が求められる点が特徴です。サポート機能と混同されがちですが、CSはより戦略的・能動的なアプローチを取ることで自社にも顧客にもメリットをもたらす存在と言えるでしょう。

カスタマーサクセスマネージャーの概要

カスタマーサクセスマネージャー(CSM)は、まさにこのCS概念を実務レベルで実行するキーパーソンです。会社によって呼称や役割が微妙に異なる場合もありますが、多くの組織では以下のような共通点があります。

  1. 顧客との長期的な良好関係を築く
    顧客が自社の製品・サービスを導入してから、どのように活用し、どんな成果を得ているのかを継続的にフォローします。顧客が目指すゴールが明確であれば、その実現に向けてプランニングや軌道修正の提案を行い、最適な使い方をガイドします。顧客満足度の向上はもちろん、顧客の成功体験が確立されれば自社の収益拡大にも大きく貢献するでしょう。

  2. 多岐にわたる業務範囲を横断的に担う
    CSMの業務には「サポート」「導入支援」「アダプション(利用促進)」「更新交渉」「アップセル・クロスセル提案」などが含まれます。企業規模が大きい場合は、これらを専門担当に分業していることもありますが、スタートアップやCS組織を新規で立ち上げたばかりの会社では、CSMがすべての機能を兼務するケースも少なくありません。

    • サポート:利用方法やトラブルへの対応窓口。最近ではAIチャットボットを活用した一次対応の自動化が進んでおり、より複雑な問い合わせや顧客との折衝など高付加価値な領域にCSMのリソースが割かれる傾向にあります。
    • 導入支援:新規契約後、顧客ができるだけ早く製品の価値を享受できるよう、初期設定やオンボーディングを行います。ここで顧客に「早期の成功体験」を提供できるかどうかは、解約率を大きく左右する重要な要素です。
    • アダプション(利用促進):日々の利用が軌道に乗った後も、定期的に顧客とやり取りを行い、新機能の紹介や課題解決のアドバイスなどを通じて深い活用を促します。必要に応じてビジネスレビュー(QBR・EBR)を実施し、顧客の中期・長期的な目標設定や新たなニーズの発見にもつなげます。
    • 更新:契約更新の意思確認やプラン変更、価格交渉などを行います。特にサブスクモデルの場合は、この更新タイミングが売上に直結するため、CSMの働きが極めて重要です。大手企業だと専任チームを設ける場合もあります。
    • アップセル・クロスセル:顧客のビジネス発展に合わせて、追加機能や上位プラン、関連サービスの導入を提案します。単なる「売上拡大のため」ではなく、顧客が新たな課題を抱えているタイミングを見極め、適切な付加価値を示すことで、結果的にWin-Winの関係を築くことが目標です。また良い成功体験の提供を通じて、既存顧客から別の顧客を紹介してもらうことも持続的な成長には必要となります。

  3. プロダクト・サービスへのフィードバック
    顧客から日々自社のプロダクトやサービスに関するフィードバックを受け取る役割です。それをプロダクトチームと共有することもカスタマーサクセスの重要な任務です。顧客の声(VoC:Voice of Customer)を集め、プロダクトチームと共有して改善を図るプロセスをフィードバックループと呼びます。

  4. 社内外の調整役としての役割
    結果としてカスタマーサクセスマネージャーは、顧客の成功と自社の利益を結びつけるハブとしての機能を担うことになります。営業とも似ているようで大きく異なるのは、「短期的な契約獲得」を目標にするのではなく、「顧客の長期的な成長」を重視する点です。ここを理解しているかどうかが、CSMとして成果を上げられるかどうかの分岐点といえるでしょう。

カスタマーサクセスマネージャーが一般的に追うKPI

カスタマーサクセスマネージャーは、日々の活動がどの程度ビジネス成果に寄与しているのかを示すため、さまざまなKPIを追いかけます。以下に代表的なものをいくつか紹介します。

  1. LTV(Life-Time-Value)/ CLTV(Customer LTV)
    LTVは、一人の顧客が契約開始から解約に至るまでの期間に生み出す収益を指す指標です。CSの最終目標は解約率を下げながらアップセルやクロスセルを行い、継続的な利益を高めることにあります。つまり、LTVを最大化することこそがCSMの重要なミッションといえるでしょう。

  2. NRR(ネットレベニューリテンション)
    既存顧客の契約更新率やアップセル、ダウングレード、解約などをすべて加味して算出する「純収益維持率」です。100%を上回れば既存顧客からの収益が増えていることを示します。SaaS企業の中には120%以上を目標に掲げるケースもあり、NRRの高さが企業の成長性を示す重要なバロメーターとなっています。

  3. GRR(グロスレベニューリテンション)
    アップセルやクロスセルによる収益増分を除外し、解約やダウングレードのみを考慮した収益維持率です。純粋に顧客をどれだけ維持できたかを示す指標で、90%以上を目標とする企業が一般的です。NRRと合わせてモニタリングすることで、CSチームの施策が顧客維持と追加売上のどちらに強みを持っているかを分析できます。

  4. チャーン率(解約率)
    SaaS企業では特に重視される指標で、一定期間にどの程度の顧客が離脱したかを示します。一般的には年間解約率5~10%以下を理想とする企業が多いです。チャーン率を下げるには、オンボーディング段階の充実や、利用促進(アダプション)のきめ細かいフォローがカギとなります。

  5. 導入支援完了率
    購入後、顧客が具体的に製品を活用し始めるまでのプロセスをどこまで完了できたかを見る指標です。導入支援を適切に行えば、その後の解約リスクは大幅に下がるとともに、アップセルの可能性も高まります。オンボーディングに成功した顧客ほど長期的に良好な関係を築けるため、多くのCS組織が導入支援フェーズに力を入れています。

  6. NPS(ネットプロモータースコア)/ CSAT(顧客満足度)
    定量的に顧客のロイヤルティや満足度を把握するために用いられます。NPSは「他者にどの程度自社サービスを推薦したいか」を数値化したもので、CSATは「サポートやサービス全般への満足度」を調べる指標です。オンボーディングやサポート直後に調査を行うことで、改善すべきポイントを早期に発見しやすくなります。

Forrester の最近の調査によれば、カスタマーサクセスを優先する B2B SaaS 企業は、競合他社と比べて成長率が 2.5 倍高く、年間で 2.2 倍多くの顧客を維持していることが示されています。さらに、Gainsight の調査結果では、CSM(カスタマーサクセスマネージャー)の導入によって、NRR(Net Revenue Retention)と GRR(Gross Revenue Retention)が 14 ポイント高まることが示されました。CSMは単なる「顧客サポート」ではなく、企業の継続成長に欠かせないコア要素として、こうした数値目標を追いかけながら組織全体を底上げしているのです。

(画像出典:Simon-Kucher

カスタマーサクセスの将来性

急拡大するカスタマーサクセスの市場

元々は一部のスタートアップ企業やSaaSビジネスのパイオニアが重点的に導入していた機能ですが、近年では大手企業を含む幅広い業界にも急速に浸透し始めています。SaaSのみならず、ハードウェアをサブスクモデルで提供する企業やB2Bのサービスプロバイダー、さらにはクラウドベースのソフトウェアを展開する金融・教育関連企業など、多岐にわたる分野でCSの導入が進んでいるのです。

こうした広がりの背景には、顧客が自由に他社サービスへ乗り換えやすくなったという大きな時代の変化があります。デジタル技術の進化やクラウドサービスの普及によって、ユーザーは気軽に新しい製品やサービスをトライアルし、合わなければすぐに解約して他社へ移ることが可能となりました。従来のように、単発のライセンス販売やハードウェアの買い切りモデルだけでは企業収益を安定的に伸ばすことが難しい時代です。

その結果、顧客満足度を高め、継続利用を促し、さらには新たな顧客を紹介してもらうための仕組みとして「カスタマーサクセス」が一層注目を集めるようになりました。顧客との長期的な信頼関係を醸成して収益を確保する手法は、サブスク型サービスを超えて多くのビジネスモデルに拡張可能です。たとえば、製造業がIoTを活用し、機器を「所有」ではなく「利用」に重きを置く形で提供するケースでも、顧客がどのように機器を活用し成果を上げるかが重要となるため、CS的なアプローチが必要になります。

実際に日本国内の求人動向を見ても、リクルートの調査によればカスタマーサクセスの求人数は2019年比で2023年時点に約3.58倍へと急増しています。海外大手のSaaS企業が日本進出時にCSチームを現地で立ち上げる例も増え、CSの専門家を探す声は今後さらに高まるでしょう。

(画像出典:リクルートエージェント

これらの状況から、カスタマーサクセスは「新たな営業手法」「サポート強化の一部」という枠組みを超えて、企業が顧客と長期的に共存共栄を図るための“経営戦略”として捉えられるようになってきました。特にSaaS系企業にとっては、NRR(ネットレベニューリテンション)を高めるための要とも言え、カスタマーサクセスなしには企業の成長が語れない段階にまで来ているのです。

年収から見るカスタマーサクセスの需要

その需要の高さは年収にも反映され始めています。ビジネスの中心的な役割を担うため、企業は優秀な人材を確保するために魅力的な報酬を提供するケースが増えているようです。企業規模や外資・日系、業界などでばらつきはありますが、概ね以下のような水準が一般的だと言えるでしょう。

  • 若手~ジュニアレベル(日本企業)
    年収350万~500万円ほど。
    事業会社の新卒や第二新卒クラス、あるいは他の営業職などからCSへキャリアチェンジした場合に該当します。CSの概念や顧客折衝の基礎を学ぶ段階です。

  • 中堅~シニアレベル(日本企業)
    年収500万~800万円ほど。
    数年以上のCS経験があり、顧客とのリレーション構築やKPI管理にも慣れた人材がこの層にあたります。一人前のCSMと言われるレベルです。オンボーディングからアップセル、複雑な交渉までを一貫して担当できるスキルが評価される段階です。

  • シニア~管理職(日本企業)
    年収1,000万円以上。
    チームを統括しつつ、トップアカウントを直接ハンドリングするリーダー層。カスタマーサクセスの仕組みづくりや組織戦略にも責任を持ち、経営陣へのレポーティングや社内調整も求められます。

  • 外資系企業(ジュニア~管理職)
    ジュニアレベルで400万~800万円、シニアで1,000万~1,400万円、管理職クラスでは1,500万円以上も珍しくありません。グローバル展開を行う企業の多くは、SaaSやクラウドビジネスで早期にCSを導入しており、そのノウハウを活かせる即戦力には高い報酬が支払われる傾向にあります。

このように、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)は今後の市場拡大と人材不足を背景に、年収水準が上昇傾向にあるのが実態です。企業にとってCSMは、売上向上だけでなく顧客満足度の向上や長期的なブランドロイヤルティの確立にも大きく寄与する存在であるため、投資対効果が高いポジションだと認識されています。そのため、CS組織に注力する企業では、高い報酬を用意して優秀なCSMを囲い込もうとする動きが今後も続くでしょう。

カスタマーサクセスキャリアパスの広がり

カスタマーサクセスの将来性を語るうえで外せないのが、キャリアパスの多様性です。「カスタマーサクセス 向いてる人」にとっては学びや成長の機会が豊富に存在し、長期的に見れば魅力的なキャリアを築ける可能性が非常に高いと言えます。

管理職・経営層への道

カスタマーサクセスチームをまとめるリーダーや部門長だけでなく、CRO(Chief Revenue Officer)CCO(Chief Customer Officer)などの企業トップの役職に就くケースも増えています。これらのポジションは「顧客と収益」という企業成長の要素を一手に担うため、経営層の一角として意思決定に深く関わります。近年では、CROやCCOからCEOに昇進する事例も増えており、CSの視点を持ったリーダーシップが企業経営に活かされる時代が到来しています。

スペシャリストとしてのキャリア

CS内でさらなる専門性を極める道もあります。たとえば、エンタープライズCSMプリンシパルCSMのように、大手顧客や高額案件をメインに担当するポジションです。ここでは複雑な組織構造を持つクライアントに対応したり、社内外のステークホルダーを多数巻き込んでプロジェクトを進めたりするため、より高度なコミュニケーションスキルやプロジェクト管理能力が求められます。

また、CS OpsRevOps(レベニューオペレーションズ)と呼ばれる機能も注目を集めています。これはカスタマーサクセスチームの日々の業務を効率化し、データやツールを活用して戦略的にサポートする役割です。顧客情報の分析やプロセス改善、CRMやカスタマーサクセスプラットフォームの運用など、裏方からCSMの成果を後押しします。CSMとして現場を経験した上で、オペレーションの視点から組織を支えるキャリアは今後さらに需要が高まるでしょう。

他部門へのキャリアシフト

CSで培われる顧客理解や課題解決力は、営業やマーケティング、プロダクト開発などあらゆる部門で活かすことができます。

  • ビジネスサイドへの転身:アカウントマネージャー(AM)や新規営業、カスタマーマーケティングなど、既存顧客とのリレーションを深める職種や新規顧客を獲得する職種への移動が挙げられます。CSで深めた製品知識と顧客志向が、説得力のある営業活動につながります。
  • プロダクト系への転身:プロダクトマネージャー(PM)やプロダクトオーナーのような役職では、顧客の声(VoC)を最も理解しているCSMの経験が大きなアドバンテージとなります。実際の現場の課題や解約につながる原因を把握しているため、より顧客目線のプロダクト改善をリードできるでしょう。

カスタマーサクセスのフィールドは、「顧客に真摯に向き合い、その成功を自社の収益と結びつける」というビジネスにおける最重要テーマのひとつです。今後もサブスクモデルの普及やクラウド技術の進化に伴い、CS組織が果たす役割はますます大きくなっていくと予想されます。CSに身を置くことで得られるスキルセットや人脈は、将来のキャリア形成において強力な武器となるでしょう。

カスタマーサクセスに必要なスキル

CSM(カスタマーサクセスマネージャー)という職種はさまざまなスキルを幅広く習得できる場でもあります。顧客と向き合いながら自社の売上拡大を担うため、単に営業スキルやサポートスキルだけでなく、製品知識・業界知識・コンサルティング的思考・プロジェクトマネジメント能力など、多面的なスキルが求められます。ある意味では“スペシャリスト”ではなく“ジェネラリスト”として多角的に活躍することが期待されるポジションともいえるでしょう。ここでは、CSMとして知っておくべき重要なスキル領域について説明します。CSMになる時点でこれらすべてのスキルを持っていることは稀です。プロフェッショナルとして成長するために準備すべきスキルとして参考にしてください。

自社製品・サービス知識

カスタマーサクセスは、自社製品を通じて顧客を成功に導くことが最大のミッションです。そのためには、まずCSM自身が自社の製品やサービスを誰よりも深く理解している必要があります。

  • 実践的な使い方の熟知
    オンボーディングの段階で初期設定を支援したり、日常的な活用方法を提案したりするには、自分自身が実際の利用シーンをイメージできなければなりません。製品機能をただ暗記するだけではなく、顧客が使うであろうユースケースを想定しながら試行錯誤を繰り返すことが大切です。

  • 事例やベストプラクティスの蓄積
    同じ製品を導入している顧客であっても、使用環境や目的は千差万別です。「どのように製品を活用すれば、具体的な成果が出るのか」を複数の実例で示せることがCSMの強みになります。実際に成功した事例を把握しておくと、顧客との打ち合わせ時に説得力が増しますし、導入のハードルを下げる効果も期待できます。

こうした製品知識の習得には自主的な学習が不可欠です。たとえば、社内外の勉強会やドキュメントを活用して最新情報をキャッチアップする、実際に製品を触り倒して操作感をつかむなど、常に知見をアップデートしておく習慣が求められます。

業界知識

自社製品の特徴を理解していても、顧客が属する「業界」や「市場」の背景を把握していなければ、深い課題解決にはつながりません。たとえば、人材マネジメントのSaaSを扱う場合、女性や外国人の雇用の流れ、AI活用のトレンドなどを知っておくと、顧客が抱えている潜在的なニーズをより早くキャッチできます。

  • 業界動向・トレンドの把握
    市場が拡大しているのか、あるいは競合が増えているのか、法規制はどう変化しているか。こうした情報を追うことで、顧客の課題を先回りして提案できるようになります。
  • 関連業界にも目を向ける
    顧客が抱える課題は、必ずしも自分たちの製品領域だけに閉じません。たとえば、人材マネジメントであれば、教育や研修業界、テクノロジー分野(HR Tech)など周辺領域の知識を得ておくことも重要です。

結果として業界知識が深まると、顧客のビジネスに寄り添ったコンサルティングが可能になり、CSMとしての信頼度を高めることにつながります。

営業スキル

カスタマーサクセスは「既存顧客向けの営業」的な役割を担うことが多々あります。とくに更新(リニューアル)やアップセル・クロスセルなど、売上に直結する場面では、CSMがフロントに立って価格交渉や要望調整を行うケースも少なくありません。

  • 交渉力
    SaaSやサブスク型ビジネスでは、契約更新のタイミングで解約率をいかに抑えるかが重要です。しかし顧客がさらなる値下げを希望したり、サービスに対する不満を持っていたりする場合、CSMが粘り強く落としどころを探り、合意形成を図る力が求められます。
  • ステークホルダー管理
    顧客だけでなく、社内のプロダクトチームや上層部との交渉も発生します。プロダクト改善に顧客要望を反映させるのか、あるいはプラン改定や価格戦略をどこまで譲れるかなど、調整の必要が多方面で起こります。CSMはその“ハブ”となり、各関係者に対する事前の期待値設定も含めた迅速かつ的確なコミュニケーションで進行を管理します。
  • 優先度のマネジメント
    CSMは複数の顧客を同時に担当し、各社のステータスに応じて最適なアクションを取る必要があります。すべての顧客に等しくリソースを割くのは非現実的です。効果的な顧客セグメント化やヘルススコアのモニタリングなどを通じて、優先すべき顧客に注力する戦略的思考が重要となります。

このように、CSMは新規営業のような積極的な営業活動が求められない場合もありますが、売上責任を担う立場である以上、営業スキルやそれに関連する交渉力・調整力を磨くことは避けられません。

コンサルティングスキル(問題解決能力)

「顧客の課題解決」はカスタマーサクセスの大前提といえます。契約を延長してもらう、アップセルを狙うといった数字上の目標があっても、結局のところ顧客が自社プロダクトを使って成果を上げられていなければ意味がありません。

  • 課題を特定する力
    まずは顧客の現状や実際の業務プロセスをヒアリングし、可視化することから始めます。症状として現れる問題(例:操作が難しい、使いこなせていない)だけでなく、その背景や根本原因を掘り下げるコンサルティング視点が不可欠です。
  • 解決策の提案力
    たとえば、「プロダクトの特定機能を使えば効率化できます」という単純なアドバイスだけでは十分ではありません。顧客の業務フローや体制にも踏み込み、どう運用を変えれば最大効果を得られるのかを具体的に提案できるのが優れたCSMです。また、課題の優先度を整理し、段階的に実行していくロードマップを示すことで顧客の理解と納得を得やすくなります。

顧客との関係が長期化すればするほど、より高度かつ複合的な課題に直面する可能性も高まります。そのとき、コンサルティング能力を軸にしたアプローチができると、カスタマーサクセスとしての価値が一層高まり、結果的に「カスタマーサクセス やめとけ」という声の逆を行く、大きなやりがいと成果に結びつきます。

プロジェクトマネジメント

サブスクモデルの場合、導入初期のオンボーディングから始まり、中長期的なアダプションフェーズ、そして更新やアップセルを見据えた継続的なサポートへと移行していきます。これらのステップを一連の“プロジェクト”と捉え、顧客を成功に導くための計画を描いて推進するのもCSMの重要な役割です。

  • 短期~長期のマイルストーン設定
    たとえば、導入支援で初期設定を終わらせ、小規模なテスト導入を行い、そこから全社的な拡大を図るといった大まかな流れを組み立てます。各フェーズごとに達成すべき目標(例:利用率、トレーニング完了数、NPS向上など)を明確化し、顧客と合意しておきます。
  • 柔軟な運用と定期的な振り返り
    プロダクトの使用状況や顧客の環境は時々刻々と変化します。定期的なミーティングやビジネスレビューを通じて成果を評価し、必要に応じて計画を修正する“アジャイル”な姿勢が求められます。大きなゴールに向けて小さな成功体験(Quick Win)を積み重ねることで、顧客のモチベーションを保ちつつプロジェクトを前に進められます。

プロジェクトマネジメントのスキルは、担当顧客の数や規模が増えるほど重要度を増します。全体のロードマップを見失わず、顧客の視点と自社のゴールを両立させることこそが、CSMとしての真価を発揮するポイントとなるのです。

カスタマーサクセスに向いている人とは?

人の話がしっかり聞ける人

顧客の成功体験を真にサポートできるCSM(カスタマーサクセスマネージャー)ほど、企業にとって欠かせない存在となりつつあります。CSMには、自社と顧客の間でコミュニケーションを取り、両者にとって最適な解決策を導き出す能力が必須です。

特に重要なのが、「人の話をしっかり聞く」力です。カスタマーサクセスは、顧客の声を社内に届ける“代弁者”であると同時に、プロダクトチームの意図やビジョンを顧客にわかりやすく伝える“通訳者”でもあります。双方の意見を上手に汲み取れなければ、顧客は製品から期待する成果を得られず、不満が解約(チャーン)につながりかねません。逆に、しっかり傾聴して要望や課題を正確に理解すれば、顧客が抱える問題を最適な方法で解決できる可能性が高まり、結果として自社の長期的な収益拡大にも貢献します。

「話すより聞くことに長けている」「相手の意図や背景を深く理解したい」というタイプの人は、カスタマーサクセスに向いていると言えます。こうした傾聴力があれば、顧客との距離を適切に縮めつつ、プロダクトチームや上司など社内のキーパーソンとの橋渡しもしやすくなるでしょう。

さまざまな関係者と調整ができる人

カスタマーサクセスでは、顧客のビジネス目標と自社のプロダクトビジョンを調整し、双方にとって有益な形を探ることが日常業務の大部分を占めます。この過程では、異なる利害や優先度を持つ複数のステークホルダー(顧客内の担当者や経営者、社内のプロダクトチーム、マーケティングチーム、営業チームなど)との連携と調整が不可欠です。たとえば、顧客側が「特定機能の改善」を強く求め、それが実現しない場合は解約も辞さないという姿勢を示すことがあります。一方で、プロダクトチームは限られたリソースで優先度の高い機能開発を進めており、顧客の求める改修は後回しにするのが妥当と考えるかもしれません。このようなギャップが生じた際、CSMは両者の意見を丁寧に聞き取り、双方が納得できる妥協点を探ります。

顧客へのアプローチとしては、なぜその機能が重要なのか、どの程度早く必要なのか、他に代替手段はないのかを深く掘り下げ、開発が間に合わない場合はどのような暫定策や追加サポートが可能かを検討します。プロダクトチームへのアプローチとしては、顧客の声を具体的なデータやビジネスインパクトとともに提示し、開発の優先度を再評価してもらうか、顧客のニーズに合う既存機能や活用事例を紹介して、少しでも現状で満足してもらえるように工夫します。

このように常に人の間に立って調整する必要があるため、交渉力や調整力に自信がある人はカスタマーサクセスに向いています。逆に、他人同士の利害が対立する場面に立ち会うことが苦手な人にとっては、CSMは精神的に負担が大きいかもしれません。

探究心が強く、粘り強く対応できる人

顧客から上がる要望が、現行のプロダクトやサービスだけで満たせるとは限りません。「開発優先度が低く、すぐには実装できない」というシチュエーションは、カスタマーサクセスの現場では決して珍しくありません。こんなとき、ただ「今は無理です」と断るだけでは、顧客は不満を持ちやすくなります。

一方、CSMが探究心を働かせて代替案を模索し、他の機能の応用やカスタマイズ、場合によっては外部サービスとの連携など新たなソリューションを提案できれば、顧客との信頼関係はむしろ強固になります。

たとえば、顧客が「独自のレポーティング機能」を求めているのに開発が間に合わない場合、すでに存在するAPIとBIツールを連携させて、類似のアウトプットを得られる形を検討するなどの工夫が考えられます。こうした案を探究心を持って積極的に探し出し、粘り強く提案・サポートできる人はCSMの適性が高いと言えます。

ビジネス全般の幅広いスキルを身につけたい人・将来起業したい人

カスタマーサクセスには、製品知識や業界の理解に加え、営業の交渉力、マーケティングの視点、コンサルティングのアプローチ、プロジェクトマネジメントなど、多岐にわたるスキルが必要です。まさにビジネスの総合力を養うポジションといえます。

営業・交渉スキルは、契約更新やアップセル・クロスセルの提案を通じて磨かれますし、 コンサルティングスキルは、顧客の課題を深く掘り下げ、本質的な解決策を提示する力です。 マーケティングの視点は、顧客の声を基にした製品改善や施策の立案に関わります。 プロジェクトマネジメント能力は、導入から長期的なアダプションまでの進捗を管理し、多くのステークホルダーを調整する力です。

「将来、起業や経営に携わりたい」「短期間で幅広いビジネススキルを身につけたい」と考える人にとって、カスタマーサクセスは理想的なトレーニングの場となるでしょう。

問題解決能力が高い(または身につけたい)人

カスタマーサクセスを極めるには、顧客の課題を的確に捉え、解決策を具体化して実行する能力が欠かせません。これは単に「顧客の要望に応える」という受動的なスタンスではなく、顧客と一緒に課題を定義し、必要に応じて顧客の業務フローや目標設定を変革していくような能動的なアプローチです。

  • 顧客の“知られざる”課題を発掘
    顧客が気づいていない問題や、組織の構造的な課題が解約を招いている場合もあります。ヒアリングやデータ分析を駆使して、根本原因を洗い出す作業が重要になります。
  • 自社プロダクトとの“ベストマッチ”を探る
    見つかった課題を、自社のソリューションによってどう解決に導くかを考え、提案します。顧客が期待する成果を明確にしたうえで、ステップバイステップでの実行プランを示すことが信頼獲得の鍵です。

問題解決に喜びを感じられる人や、新しい課題にチャレンジするのが好きな人は、CSMとしてのやりがいを大いに見いだせるはずです。

データを使った分析思考ができる人

顧客が成功に向かっているかどうかを判断するには、定性的なコミュニケーションだけでなく、定量的なデータのモニタリングも重要です。例えば、プロダクトの利用率やログイン頻度、サポート問い合わせ件数、NPS(ネットプロモータースコア)など、さまざまな指標を組み合わせて顧客の“健康状態”を可視化する方法が一般的です。

危険兆候の早期発見利用率が急激に低下したり、アップセルの提案が全く受け入れられなくなったりすると、解約(チャーン)のリスクが高まります。こうした兆候をデータで早期に捉え、対策を講じることができるのが優れたCSMです。 成功体験の裏付け逆に利用率や導入部署数が増えている場合、顧客がどれだけ成果を感じているかをヒアリングし、追加提案につなげることができます。データを活用することで、顧客自身も「自社がどれほど変化したか」を客観的に認識しやすくなり、さらなる利用拡大のモチベーションとなるでしょう。

データ分析とコミュニケーションを組み合わせることで、CSMは単なるサポート担当ではなく、顧客との共創を実現するビジネスパートナーになれます。データを見るのが苦手という人でも、必要性を感じればスキルを磨く機会が多く与えられるのがカスタマーサクセスの仕事です。

カスタマーサクセスになるには?ポジション別の準備ポイント

カスタマーサポートからカスタマーサクセスへ

カスタマーサポート出身の人がCSM(カスタマーサクセスマネージャー)を目指す場合、まず強みとして挙げられるのは、細かな製品の機能や仕様を深く理解していることです。サポート業務では日常的に顧客からの問い合わせに応じ、「どのように設定すれば特定の問題が解決するのか」「バグの原因はどこにあるのか」といった、きめ細かな知識が求められます。この知識はカスタマーサクセスでも即戦力となり得ます。特にオンボーディングの段階で、顧客が自社プロダクトを使い始める際の初期設定やトラブルシュートをスムーズに導けるのは大きなアドバンテージです。

一方で、CSMは顧客ビジネス全体を俯瞰し、長期的な成果を引き出す役割を担います。サポート担当時代にはあまり馴染みのなかった、顧客の事業KPIや目標設定契約更新やアップセルにつながる戦略的アプローチなどが欠かせません。加えて、時には厳しい交渉を伴う「価格調整」や「開発チームへの優先度リクエスト」などの業務も発生します。そのため、サポート時代からCSチームのミーティングやビジネスレビューに参加し、営業的・コンサル的な視点を身につける努力が必要となるでしょう。自ら志願して上司や先輩の打ち合わせに同席するなど、早めにビジネス面の知見を得ることができれば、CSMへの転身がスムーズになります。

営業からカスタマーサクセスへ

営業職を経験してきた人は、顧客折衝やクロージングスキルを武器にCSMを目指すことができます。契約更新や追加購入のタイミングで顧客の継続意思を確認したり、アップセルやクロスセルの提案を行ったりと、「売上責任」に直結する業務が多々あります。営業出身者は、数字の目標を日々の行動に落とし込み、実際のコミュニケーションで成果を出すという点に慣れているため、そうしたプレッシャーにもうまく対応できるでしょう。

一方、営業畑からCSMになる場合、プロダクトの深い知識顧客の運用フローへのアドバイスといった面でギャップを感じるかもしれません。カスタマーサクセスでは、「この機能を具体的にどう活用すれば顧客の業務効率が上がるのか」「顧客の社内プロセスをどう変えれば成果が出るのか」といった、より長期的かつ運用に根差した視点が必要とされます。製品ドキュメントや成功事例、カスタマーミーティングの記録などを活用し、顧客の“実運用”を徹底的に学ぶ姿勢が求められます。

特にエンタープライズCSMやストラテジックCSMのポジションでは、顧客の組織体制が複雑でステークホルダーも多岐にわたるため、「企業規模の大きい新規営業を経験した人」を優先的に採用する企業も少なくありません。逆に言えば、こうした大手向けの営業経験者は、CSMとしても即戦力になり得る可能性が高いでしょう。

マーケティングからカスタマーサクセスへ

マーケティング担当者は、顧客の購買行動やペインポイントを分析し、どのようにアプローチすればニーズに応えられるかを熟知している点で、CSMに転身しやすい特長があります。ペルソナ設定や顧客セグメント化のノウハウを活かして、オンボーディング後の顧客群を複数のタイプに分け、それぞれに適切な活用コンテンツや訴求ポイントを提供するといった“ロータッチ/テックタッチ”な手法も得意分野といえるでしょう。

また、マーケターは「市場全体のトレンド」や「競合の動向」を把握しているため、CSMとして顧客に対してビジネス全体の視点から助言できる強みがあります。たとえば、「今後AIが当たり前になる時代に向けて、既に取り組んでいる企業はこれだけ成果を上げている」とデータを示しながら製品活用を提案することで、顧客の意識や行動を変えるきっかけを生み出せるのです。

加えて、マーケティングのコンテンツ制作スキルや分析スキルは、カスタマーサクセス部門が集客・顧客教育目的で作成するブログ記事、ウェビナー、FAQコンテンツなどに直結します。新規獲得だけでなく、既存顧客への情報発信やクロスセルの促進にも役立つため、マーケティング×カスタマーサクセスのスキルセットは多くの企業で重宝されるでしょう。

プロダクトからカスタマーサクセスへ

プロダクト開発やエンジニアリングの経験がある人がCSMを目指すケースでは、技術的背景を理解していることが最大の武器になります。顧客から上がる機能改善の要望やバグ報告に対して、テクニカルな観点でスムーズにコミュニケーションを取り、開発チームへ正確にフィードバックできるのは大きな強みです。特に基幹システムやセキュリティ、ネットワーク関連など、技術的ハードルが高いプロダクトを扱う場合は、エンジニア出身のCSMを求める企業も増えています。

とはいえ、エンジニア出身者にとっては、「売上責任を伴う数字の管理」や「顧客との予算・価格交渉」、「ビジネスロジックを踏まえた運用プランの提案」などは慣れない世界かもしれません。CSMとして活躍するためには、ビジネス面での目標設定や、長期的な契約更新サイクルを念頭に置いた計画立案などを学ぶ必要があります。

プロダクトチームからの社内異動であれば、既に開発サイドとの人間関係が築かれているため、顧客要望の優先度を交渉する際に「なぜ必要なのか」を技術的にもビジネス的にも説得力を持って説明できるポジションになります。こうした橋渡し的役割がうまく機能すると、企業全体のNRR(ネットレベニューリテンション)や顧客満足度向上にも大きく貢献できるでしょう。

カスタマーサクセスはやめとけと言われる理由

一方「カスタマーサクセスやめとけ」「カスタマーサクセス 辛い」という声をときどき耳にするのはなぜでしょうか?ここまで介してきたように、カスタマーサクセス(CS)はやりがいも将来性もある魅力的な仕事です。しかし、一部の人にとっては厳しく感じられる要素も存在します。本章では、カスタマーサクセスを否定的に捉える意見や、実際に「CSは大変だ」と感じる理由について掘り下げます。

求められるスキルが幅広い

カスタマーサクセスマネージャー(CSM)は、自社製品の知識から営業的な交渉力、プロジェクトマネジメント、コンサルティング思考に至るまで、多岐にわたるスキルを必要とします。最近では、顧客データの可視化やヘルススコア分析など、データ解析スキルまでも求められるケースが増えてきました。

  • ジェネラリスト志向がないと苦しい可能性
    多くの企業ではまだより専門的なCSチームを確保できるほど企業規模が大きくなく、複数のCS機能を一人で担う必要があります。ひとつの分野を極めたいスペシャリスト志向の人にとっては、CSMは“何でもやらなくてはいけない”職種に映ることがあります。「営業だけ極めたい」「プロダクト技術だけ磨きたい」という希望を持つ人にとっては、あまりにも守備範囲が広く息苦しさを感じるかもしれません。
  • 進化のスピードが速い
    SaaSやクラウドサービスの普及に伴い、CSが注目されるようになって日が浅いこともあり、CSに関する新しい方法論やツールが次々と登場しています。そのため、一度身につけたスキルで安定して働き続けられるかというと、そうとも限りません。「学び続ける姿勢」を維持できない人にとっては、ややハードルが高い環境と言えるでしょう。

重い責任に伴うプレッシャーがある

カスタマーサクセスのKPIは、ネットレベニューリテンション(NRR)やチャーン率など、売上に直結する重要な指標が中心です。これらは営業のように「毎月の新規契約数」で追われることは少ないですが、事業の持続的な成長に大きく影響を与える数字であることに変わりはありません。

レベニューリテンションへの責任「顧客との長期的な関係構築」がCSMの使命ですが、ここで解約が続くと会社の収益が大幅に減少する可能性があります。自社の売上や将来の成長見込みを左右する立場であるため、プレッシャーを感じる人も少なくありません。 ポジティブに捉えられる一面とはいえ、責任が重い分だけ「自分が事業の基盤を支えている」というやりがいを感じやすいのも事実です。マーケティングや新規営業と同様に、数字と向き合いながら会社の成長に貢献している実感を持てるため、達成感や自己成長を求める人にはやりがいのある仕事といえます。

業務範囲・業務量が多い

CSMは、顧客の導入支援、利用促進、契約更新の交渉、アップセルの提案など、ビジネスサイクル全体を幅広く担当します。クラウドサーカス株式会社の調査によれば、カスタマーサクセス担当者1人あたり平均で97社の顧客を受け持っているというデータがあり、少人数の企業ではCSMが数十社、時には100社以上を担当することも珍しくありません。

1社あたりの作業量が増大するリスクサブスクモデルでは、顧客との関係が長期化するほど対応範囲が広がります。オンボーディングや定期的なレビュー、トラブル対応、プロダクトチームへのフィードバックなど、多くのタスクが同時に進行することもあります。すべての顧客に同じ労力をかけるのは現実的ではないため、セグメントや優先順位の判断を誤ると業務がパンクする可能性があります。 効率化のための仕組みづくりやオートメーションの必要性このような膨大な業務量に対処するには、プロダクト内のチュートリアル機能やナレッジベース、ウェビナーやメール配信などを活用して効率化を図ることが不可欠です。無計画にすべてを手作業で行おうとすると、精神的にも体力的にも限界が訪れるでしょう。仕組みづくりを嫌う場合、CSの仕事自体を「激務で辛い」と感じる可能性が高いです。

クレーム対応が多い場合もある

カスタマーサクセスは、顧客にとって最も身近な接点となることが多く、何か不満や問題が発生した際には、まずCSMがその矢面に立たされます。プロダクトに不具合が生じたり、バグが長期間改善されなかったりすると、激しいクレームが続くこともあります。

ストレスの多い状況に対する耐性が求められます。長期的に顧客と良好な関係を築くためには、クレームを受けても感情的にならず、冷静に問題解決に導く姿勢が重要です。クレーム対応が苦手な人や対人ストレスに弱い人にとっては、CSMの業務は大きな負担となるでしょう。 しかし、対応次第では顧客に好印象を与えることも可能です。トラブル対応の質が高ければ、その後の顧客ロイヤルティが大幅に向上する可能性があります。問題が解決した際に、「CSMのおかげで助かった」「この会社は顧客の声に真剣に向き合ってくれる」と評価されることも少なくありません。ネガティブな状況をポジティブな印象に変えることができるのは、CSMの腕の見せどころです。

こんな企業のカスタマーサクセスはやめとけ?

カスタマーサクセスは「事業の長期的成長を顧客との成功を通じて実現する」役割ですが、企業によってはCS組織を十分に機能させられていない場合があります。ここでは、転職を検討する際に「このままだとちょっと危険かも」と感じるポイントを紹介します。もちろん、こうした課題を解決すれば組織に大きく貢献できる可能性もありますので、あくまでも参考として捉えてください。逆にCS管理職を目指す方にとっては、これらの問題を解決することが自身のキャリアアップに大きく寄与するでしょう。

CSMの役割や評価基準があいまい

CSMは幅広い業務を担うポジションですが、その役割や評価基準が明確に定義されていない企業は要注意です。たとえば、以下のような状況が挙げられます。

  • 具体的なKPIや数値目標が設定されていない
    「解約率を下げたい」「アップセルを増やしたい」などの漠然としたゴールしかなく、CSMが日々何を追うべきかが曖昧だと、やみくもに対応し続けて疲弊してしまうでしょう。
  • “顧客満足度”だけを指標とするケース
    CSATやNPSなどの顧客ロイヤルティを示す指標は重要ですが、それだけに注力すると売上や収益に結びつかないままコストセンター扱いされるリスクがあります。カスタマーサクセスが大切にすべきは、顧客満足と事業成長の両立です。
  • 優先度がコロコロ変わる
    経営層がCSの役割を十分に理解しておらず、新規顧客開拓やプロダクト改善などほかの施策に流されるままになり、CSが本来注力すべきチャーン防止やアップセル戦略が後回しになるケースもあります。

このような状況では、CSMが「何でも屋」として扱われ、顧客の成長に集中できないことが多いのが現実です。転職先のCS部門で役割が曖昧な場合は、事前にどのKPIを重視するのか、どのような業務範囲を想定しているのかを確認しておくことが重要です。

目の前の売上に注力しすぎて、バッドフィット顧客ばかり受注

スタートアップや売上に厳しい組織では、「短期的な目標を優先して誰彼かまわず契約を取る」傾向が見られることがあります。自社のプロダクトやサービスと相性が悪い(バッドフィットな)顧客を多数抱えてしまうと、CSMとしては次のような問題が生じやすくなります。

  • 大きなチャーンリスクを常に抱える
    そもそも顧客の求める課題解決と自社プロダクトの本質的な価値がマッチしていないため、導入効果が実感しづらく、更新率が低くなる可能性が高いです。
  • アップセルやクロスセルがほぼ見込めない
    使っている機能が限定的、あるいは本来の価値を引き出せていないため、追加提案をしても興味を持ってもらえない場合が多々あります。
  • サポート・コミュニケーションコストが肥大化
    製品との相性が悪い分、ささいな問題でも顧客が不満を抱えやすく、結果的にクレーム処理に膨大な時間を割くケースも少なくありません。

カスタマーサクセスは、長期視点で顧客と信頼関係を築くことが本質的な役割です。バッドフィット顧客が多すぎる企業だと、いつまでも他部署の「尻拭い」に追われ、戦略的な施策に時間を割けないまま疲弊してしまう可能性があります。ただし、どんな顧客が“バッドフィット”かを正しく定義し、他部署とすり合わせを行っていけば、CSMが企業の売上拡大と顧客満足度向上の両面で力を発揮できる体制を構築できるはずです。

部署間での連携がとれない

カスタマーサクセスの特性上、マーケティング、営業、サポート、プロダクトチームとの密接な協力が不可欠です。たとえば、顧客情報を適切に共有し、サポートの課題を迅速に解決し、解約リスクを営業と連携して未然に防ぐなど、組織を横断した動きが求められます。しかし、企業文化や組織体制によっては以下のような問題が生じることがあります。

部署間の“壁”が厚く、営業は新規顧客の獲得に専念し、サポートは顧客対応で手一杯。プロダクトチームは開発の優先順位を他部署と共有しないなど、情報の連携が不足しているケースです。CSがチャーン防止の緊急要望を出しても、他の部署が動いてくれない可能性があります。 根本的な課題が放置されることもあります。カスタマーサクセスが顧客からのフィードバックを集めても、組織として改善策を検討する場がなかったり、経営層がそれを軽視していたりすると、結局プロダクトやサービスが改善されないまま時間が経過します。CSMが成果を出せず、やりがいを失う原因となるでしょう。

企業が本気でCSを推進するのであれば、横断的な連携体制と部署を超えたデータ・情報の共有が不可欠です。こうした連携が欠けたままだと、CSM一人の努力では限界があり、個人レベルでの取り組みが行き詰まってしまいます。

まとめ

本記事では「カスタマーサクセス(CS)とは何か」からはじまり、その将来性、キャリアパス、必要なスキル、向いている人の特徴、各職種からのキャリアチェンジのポイント、CSはやめとけと言われる理由、さらに転職先として要注意な企業の特徴までを網羅的に解説しました。CSMは幅広いスキルと顧客志向が求められる一方、大きなやりがいや成長機会を得られる魅力的なポジションです。事業の根幹を支えるからこそプレッシャーも重く、クレーム対応や多部署との調整など困難を伴う場面もありますが、それらを乗り越えることで市場価値の高いビジネスパーソンへと成長できます。企業を選ぶ際は、CSMの役割や評価基準、受注顧客のフィット感、他部署との連携体制などを事前に確認し、自分が存分に力を発揮できる環境を見極めることが重要です。顧客と企業がともに成功を収めるために、ぜひカスタマーサクセスの可能性を前向きに検討してみてください。