「新規顧客を獲得するためのコストは、既存顧客を維持するためのコストの5倍以上かかる」とされるフレデリック・F・ライクヘルドの1:5の法則は、近年日本でも広く知られるようになりました。最近では、多くの企業が顧客との長期的な関係構築に注目し、「カスタマーサクセス」という概念への関心が業界を超えて高まっています。SaaSビジネスを中心に発展してきたカスタマーサクセスは、今や様々な業界で顧客の成功を支援し、企業の持続的な成長を実現する重要な役割を担っています。
「カスタマーサクセス」という言葉を聞いたことはあるけれど、実際にどのような仕事なのか、具体的には答えられないという方も多いのではないでしょうか。この記事では、カスタマーサクセスの定義や重要性から実践的な戦略、KPIの設定方法までを包括的に解説します。特に、組織の設計や具体的な体制構築に向けたアプローチについて詳しく説明します。ビジネスにおけるカスタマーサクセスの全体像を理解するきっかけとしてお役に立てると幸いです。
カスタマーサクセス(Customer Success)は、顧客と企業の双方に長期的な利益をもたらすことを目指した戦略です。カスタマーサクセス協会では「顧客と企業の持続可能で実証された収益性を最大化するための、長期的で科学的に設計され、専門的に指揮された事業戦略」と定義されています。
この戦略には、以下の5つの主要な特徴があります:
カスタマーサクセスは、マーケティングや営業、サポートなどの多様な部門と協力し、新しい専門分野として発展しています。
なぜカスタマーサクセスが重要視されているのか?具体的な理由を見ていきましょう。
効果的なカスタマーサクセスは、顧客の継続率を平均で14%向上させることが可能です。冒頭で述べたように、既存顧客を維持するコストは、新規顧客を獲得するコストの約1/5とされており、フレデリック・F・ライクヘルドは、顧客離れを5%改善することで、利益が最低でも25%向上することも明らかにしております。さらに、Marketing Metricsの調査によると、既存顧客への販売成功率は60-70%であるのに対し、新規顧客への販売成功率はわずか5-20%に過ぎません。このように、効果的なカスタマーサクセスの組織を構築することが、収益に大きな影響を与えることは、多くの研究で示されています。
継続的なサポートを行うことで、顧客の満足度と忠誠心を高めることができます。ロイヤリティが向上するほど、収益性の確保が容易になります。満足した顧客はブランドの支持者となり、口コミや評判を通じて新たな顧客を引き寄せます。
顧客と継続的にコミュニケーションを取ることで、顧客のニーズを的確に理解し、最適なタイミングでアップセルやクロスセルを行うことが可能になります。これにより、顧客の生涯価値(Customer Lifetime Value)を向上させることができます。
顧客のニーズを継続的に把握することは、長期的なプロダクト開発において非常に効果的です。プロダクトやサービスチームと定期的に顧客のフィードバックを共有し、製品の改良や開発を進めることで、常に顧客のニーズに応える製品を提供し、新たな価値を生み出すことが可能です。
統一されたプロセスを導入することで、トレーニングにかかるコストを抑え、対応の一貫性を確保します。さらに、問題を事前に解決することで、サポートチームの負担を軽減します。
このようにカスタマーサクセスは、顧客満足度を向上させるだけでなく、企業の収益拡大や顧客との強固な関係の構築を促進します。これにより、持続可能で予測可能な収益を生み出し、企業の長期的かつ安定した成長の基盤を形成することが可能です。
ここでは、代表的なカスタマーサクセス戦略を具体的に解説し、それぞれの方法がどのように企業の成長や顧客満足度向上に役立つかを説明します。
カスタマーセントリックアプローチは、組織全体で顧客を最優先に考える文化を構築するための戦略です。顧客のニーズや期待、課題を深く理解し、それに基づいた価値を提供することを目指します。Forresterの2021年のレポートによると、顧客中心主義を重視する企業は、そうでない企業に比べて年間の顧客維持率が2.2倍高いことが示されており、このアプローチを実現することで大きな収益性が期待できます。以下に具体的なステップを示します。
具体的なステップ:
顧客データの活用:顧客行動データやアンケート結果を分析し、個々の顧客に合わせたサービスを設計します。
ペルソナ作成とセグメント化:顧客を共通の特徴に基づいて分類し、それぞれのニーズに合わせたコミュニケーション戦略を立案します。
タッチポイントの最適化:カスタマージャーニーの各段階で最適な接点を設け、顧客に価値を提供します。
このアプローチを実行するには、全社的な協力が必要です。マーケティング、営業、経営企画、オペレーションチームと緊密に連携し、企業全体で強固な組織を築きましょう。また、顧客の成功を目指す取り組みが従業員のやりがいを高め、モチベーションの向上にもつながることが期待されます。
参考ブログ:カスタマーセントリックとは?成功企業が密かに実践する顧客中心戦略について解説
カスタマーサクセスにおけるアウトカムとは、顧客が自社のプロダクトやサービスを利用することで得られる具体的な成果や価値のことを指します。アウトカムは単なる製品の機能や使用状況ではなく、顧客のビジネス目標達成に直接的に寄与する結果を意味します。
カスタマージャーニーマッピングは、顧客が製品やサービスを利用し、成功に至るまでのプロセスを可視化する手法です。この手法により、顧客の課題や期待を各段階で正確に把握し、最適な対応が可能になります。
主なフェーズとアクション:
契約前(Pre-Sales):顧客のニーズを理解し、適切な期待値を設定します。
オンボーディング(Onboarding):顧客が製品を迅速に導入し、早期に価値を実感できるよう支援します。このフェーズでは、トレーニングや導入サポートが重要です。
適応(Adoption):顧客が製品を最大限に活用できるよう、継続的なサポートを提供します。
成長(Growth):顧客の目標を基に、追加の価値を提供する機会(アップセルやクロスセル)を特定します。
更新(Renewal):顧客が契約を更新する際には、これまでの成果を共有し、将来の展望を提案します。
CLMは、顧客との関係をライフサイクル全体で最適化する戦略です。各フェーズにおいて適切な施策を講じることで、顧客満足度を向上させるだけでなく、企業の収益性を向上させます。
ライフサイクルの主なフェーズ:
認知(Awareness)と獲得(Acquisition):マーケティングや営業チームが中心となり、潜在顧客を引き付け、契約に至る活動を行います。
オンボーディング(Onboarding):顧客が製品やサービスをスムーズに導入し、早期に成果を実感できるよう支援します。
活用(Engagement/Usage):製品の利用を促進し、必要に応じてトレーニングや追加サポートを提供します。
ロイヤルティ形成(Retention/Loyalty):長期的な関係を築き、顧客価値を最大化します。
顧客を「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」の3つの戦略で分類し、それぞれのニーズに応じたサポートを提供します。
ハイタッチ戦略:大口顧客など重要な顧客に対し、専任のカスタマーサクセスマネージャー(CSM)が1対1の密接なサポートを提供します。定期的なビジネスレビューやカスタマイズされた提案が特徴です。
ロータッチ戦略:中規模の顧客に対し、ウェビナーやグループトレーニングを活用して効率的に支援します。
テックタッチ戦略:小規模顧客向けに、オンボーディング動画や自動化されたメールを活用したセルフサポートを提供します。
これらの戦略を組み合わせて、顧客の規模、業界、収益への貢献度に応じた適切なリソース配分を行うことで、すべての顧客に価値ある体験を提供することが可能です。
カスタマーサクセス(Customer Success, CS)は、顧客の成功を支援し、企業の成長を促進する戦略です。しかし、その実現には、組織の成熟度に応じた適切な構成要素が必要です。Gainsightが提唱するカスタマーサクセスの成熟度モデルを基に、各フェーズで必要な構成要素を詳しく解説します。
REACTIVEフェーズは、問題が発生して初めて対応が行われる段階であり、火消しが主な業務となります。この段階では、顧客との関係は主に受動的で、顧客が問い合わせや問題を報告してきた場合にのみ対応する形が一般的です。多くの企業では、顧客旅路(カスタマージャーニー)に基づく戦略的な関与が不足しており、結果として顧客満足度やロイヤルティの向上に限界があります。サポート主導の運営が中心であるため、リソースは常に逼迫し、効率的なプロセスを構築する余裕がないことが課題となります。このフェーズにある企業は、スケーラブルなカスタマーサクセスプロセスを導入し、プロアクティブな顧客関係を構築することで、初めて持続可能な成長を実現できるようになります。
INSIGHTS & ACTIONSフェーズは、カスタマーサクセスに向けた初期の進化段階です。この段階では、企業が顧客の行動や感情に関するデータを収集し、それに基づいて行動を起こす能力を持ち始めます。収集されるデータには、製品やサービスの利用状況、アンケート結果、サポート履歴、さらには主観的なフィードバックなどが含まれます。これらの情報を統合し、顧客の全体像を把握することで、顧客ニーズの深い理解が可能になります。また、この段階では単なるデータ収集に留まらず、そのデータを分析し、プロアクティブな対応に役立てることが重要です。このプロセスにより、顧客体験の改善やリスクの早期発見が実現し、企業が顧客の成功に向けた具体的な行動を取れるようになります。
OUTCOMESフェーズは、カスタマーサクセスがさらに成熟し、顧客の成果を最優先に考える段階です。この段階に達した企業は、顧客が製品やサービスを通じて達成したい成果を明確に理解し、それに向けた最適なサポートを提供します。この段階では、顧客データの収集と分析が高度に進化し、洞察が一元化されることで、顧客のニーズに即応できる体制が整っています。また、一部のプロセスは自動化され、顧客のライフサイクル全体を構造的に管理することが可能になります。これにより、企業は顧客に適切なタイミングで最適な支援を提供し、更新や拡大の機会を最大化します。
TRANSFORMフェーズは、カスタマーサクセスの最高レベルであり、組織全体が顧客中心の文化を完全に確立している段階です。この段階に達した企業では、カスタマーサクセスが単なる部門の一機能としてではなく、全社的な戦略と文化の中核として機能します。すべてのチームや部門が、顧客の成功を共有目標とし、顧客健全性を指標に業務を進めるようになります。また、プロダクト開発やマーケティング、営業などの部門間のシームレスな連携が実現し、顧客のニーズに迅速かつ効果的に応える体制が整います。さらに、顧客は単なるユーザーではなく、企業の支持者や提唱者として位置づけられ、成功事例の共有やブランドの拡大に貢献します。TRANSFORMフェーズは、顧客体験が企業文化の一部として根付いた状態を表しており、企業が競争優位性を確保し、持続可能な成長を遂げるための最終的な目標です。
GainsightのCSエレメンツは、カスタマーサクセスの成熟度のフェーズに応じて必要な役割要素を体系化してくれています。カスタマーサクセスの体制を整える上で、人材、プロセス、テクノロジーをどのように組み合わせるかのヒントになります。
カスタマーサクセス(CS)のパフォーマンスを評価することは、顧客の成功と企業の成長を維持する上で重要です。本記事では、CSにおける主要な指標であるKGI(Key Goal Indicator)とKPI(Key Performance Indicator)を紹介し、それぞれの活用方法を解説します。
KGIは、企業が達成すべき最終的な成果を示す指標です。カスタマーサクセスのKGIとして代表的なものは以下の3つです。
NRR(ネットレベニューリテンション)は、既存顧客から得られる収益の維持率を示す指標です。特に、アップセルやクロスセルによる増収、ダウングレードや解約による減収を含めた収益の変動を測定します。NRRが高いほど、既存顧客からの収益基盤が強固であることを意味します。
NRRは既存顧客からの収益の安定性と成長性を測る重要な指標で、特にサブスクリプション型ビジネスでは不可欠です。Bessemer Venture PartnersによるとSaaSビジネスではNRRが100%だとGood、110%だとBetter、120%だとBestと捉えられるようです。
チャーンレートは、一定期間内に失った顧客の割合を示す指標です。この指標は、顧客ロイヤルティやサービスの価値がどれだけ持続しているかを把握するのに役立ちます。低いチャーンレートは、顧客満足度や成功の高さを示し、逆に高い場合は改善が必要な箇所を特定するきっかけとなります。通常、顧客維持が重要なサブスクリプション型ビジネスで特に重視されます。チャーンレートの改善には、顧客ニーズの深い理解と、プロアクティブなサポートの提供が求められます。
CLTV(カスタマーライフタイムバリュー)は、顧客が取引を継続する期間において、企業にもたらす総収益を表します。これは顧客獲得コスト(CAC)と比較することで、顧客ベースの収益性を評価する重要な指標です。高いCLTVを達成するには、顧客の満足度向上、アップセル・クロスセル戦略の活用、そしてチャーンの削減が必要です。長期的な成長を測るための指標として、投資家や経営層にとっても重要です。
KPIは、KGIを達成するための具体的な進捗状況を測る指標です。以下に、カスタマーサクセスでよく用いられるKPIを紹介します。
顧客が製品やサービスをどれだけ積極的に使用しているかを示す指標です。顧客が製品を頻繁に利用している場合、それは製品が価値あるものと認識されている証拠です。しかし、利用率が低い場合は、オンボーディングプロセスや製品トレーニングに問題がある可能性が考えられます。この指標を分析することで、製品の改善やターゲット顧客の見直しが必要かどうかを判断できます。
Time-to-Value(TTV)は、顧客が製品やサービスの価値を初めて実感するまでの期間を示します。この期間が短いほど、顧客は導入後すぐに満足感を得られるため、オンボーディングプロセスの成功度が高いと評価されます。TTVを短縮するためには、顧客が簡単に価値を実感できるシンプルなプロダクトデザインや、効果的なサポート体制を整えることが求められます。
新規顧客が製品やサービスの導入プロセスをどの程度完了したかを測定します。完了率が高い場合は、顧客が迅速に製品の価値を理解し、利用を開始していることを示します。逆に、完了率が低い場合は、プロセスの簡略化や個別サポートの強化が必要です。
顧客とのコミュニケーションの頻度を測る指標です。これは営業やカスタマーサクセスとのミーティング回数、カスタマーサポートへの問い合わせ頻度などを含みます。顧客とのエンゲージメントが高い場合、顧客は企業のサービスや製品に関心を持ち、ロイヤルティが向上する傾向があります。さらに、エンゲージメントの高さは、チャーンレートの低下や顧客満足度の向上にも寄与します。
顧客の感情やブランドに対する信頼度を定量化する重要な指標です。CSATは顧客が特定の体験やインタラクションに満足しているかを評価し、NPSは顧客が製品やサービスを他者に推薦する意向を測定します。これらの指標はトレンドとして観察されることが多く、サービスや製品が顧客にとってどのような価値を提供しているかを長期的に把握するために使用されます。
ヘルススコアは、上記の複数のKPIを総合的に評価し、顧客の健康状態をスコア化したものです。代表的なフレームワークとして「DEARモデル」があります。
ヘルススコアはダッシュボード形式で表示されることが多く、リスクのある顧客を特定し、迅速な対応を可能にします。
ちなみに日本では、KGIとKPIを階層的な目標管理ツールとして利用することが一般的ですが、アメリカでは、Lagging Indicator(遅行指標)とLeading Indicator(先行指標)を活用するケースが多く、将来のパフォーマンス予測に重点を置いています。どちらのアプローチを採用する場合でも、指標を適切に設計し、進捗を定期的にモニタリングすることで、カスタマーサクセスの成功につながります。
カスタマーサクセス(CS)は、顧客の成功を支援し、企業の持続的な成長を促進するために、多様なツールやテクノロジーを活用しています。本記事では、CSに役立つ主要なツールカテゴリとその代表例を紹介します。
(画像出典:Customer Success Collective)
カスタマーサクセス専用ツールは、顧客データ管理やヘルススコアの追跡、プロアクティブなアクションを支援します。代表的なツールには、Gainsight、Totango、ChurnZeroがあり、それぞれが顧客エンゲージメントの強化や解約予測に特化した機能を提供しています。
CRMは、顧客データを統合管理し、営業やサポートチームと情報を共有する基盤として活用されます。Salesforceは大企業向けに広く採用されており、HubSpotは中小企業向けの統合型ソリューションを提供しています。また、Zoho CRMはコストパフォーマンスと柔軟なカスタマイズ性で評価されています。
顧客からの問い合わせ対応を効率化するためのツールとして、Zendesk、Freshdesk、Intercomが挙げられます。これらのツールは、問い合わせ履歴の管理やマルチチャネル対応を可能にし、迅速かつ的確なサポートを実現します。
顧客行動データの分析に特化したツールとして、Tableau、Google Analytics、Mixpanelが代表例です。これらは、データを可視化し、意思決定に役立つインサイトを提供することで、顧客エンゲージメントの向上を支援します。
業務プロセスを効率化するための自動化ツールには、ZapierやMarketoがあります。これらのツールは、タスクの自動化やワークフローの標準化を可能にし、時間の節約とチームの生産性向上に寄与します。
新規顧客が製品やサービスをスムーズに利用開始できるよう支援するツールとして、AppcuesとWalkMeが挙げられます。これらのツールは、ガイド機能や操作説明を提供し、顧客のオンボーディング体験を向上させます。
顧客満足度やフィードバックの収集に特化したツールには、Qualtrics、SurveyMonkey、Typeformがあります。これらは、簡単にアンケートを作成し、顧客の声を収集して分析するために活用されています。
顧客やチーム間の情報共有を円滑にするツールとして、SlackとZoomが広く利用されています。Slackはリアルタイムでのチーム内コミュニケーションに最適で、Zoomはオンライン会議やウェビナーの開催に特化しています。
顧客が自己解決できるリソースを提供するためのツールとして、ConfluenceとNotionが挙げられます。これらは、ナレッジベースの構築やドキュメント管理に活用され、顧客サポートの負担軽減に寄与します。
カスタマーサクセスを効果的に実行するには、顧客データを一元管理する**Single Source of Truth(SSOT)**の考え方が欠かせません。SSOTの目的は、情報の一貫性と正確性を確保し、顧客体験の向上や効率的な意思決定を実現することです。しかし、多くの企業がこの実現に苦戦しています。その最大の課題の一つが、複数のツール間でのデータ連携の複雑さです。
カスタマーサクセスで使用するツールは多岐にわたり、それぞれが特定の用途で優れた機能を提供します。しかし、それらをシームレスに連携させ、統合的に運用することは容易ではありません。ツール間のデータの不整合や、部門間での情報共有の難しさが、顧客対応の一貫性を損なう原因となることが少なくありません。
こうした課題を解決するために、最近ではHubSpotのような統合型プラットフォームが注目を集めています。このようなプラットフォームは、CRM、マーケティングオートメーション、サポート管理、ナレッジベース、フィードバック収集といった、複数の機能を一つのツール内に包含しています。その結果、個別のプロダクトを複数使用する必要が減り、ツール間の連携コストを削減できます。
この統合型プラットフォームの採用は、利用するプロダクトの数を減らすだけでなく、運用プロセスの効率化や、データの一元管理を容易にするというメリットがあります。企業にとっては、顧客データを迅速かつ正確に把握し、プロアクティブなカスタマーサクセス活動を展開するための強力な基盤となります。
カスタマーサクセス(Customer Success, CS)は、顧客の成功を支援し、企業の収益成長を促進する重要な役割を担っています。その実現には、効果的な組織構造が不可欠です。本記事では、カスタマーサクセスの全体構造や部門構成、他部門との連携について詳しく解説します。
近年、カスタマーサクセスはChief Revenue Officer(CRO)の指揮下に位置づけられることが一般的になっています。この配置により、マーケティングや営業、レベニューオペレーション(Revenue Operations)と緊密に連携し、収益向上を目的とした全体的な戦略が強化されます。
このアプローチは、カスタマーサクセスが顧客体験の最適化だけでなく、契約更新やアップセル、クロスセルなどの収益機会を最大化する役割を担っていることを反映しています。CROの下に配置されることで、他部門とのシームレスな協力体制が構築され、全社的な連携が促進されます。
カスタマーサクセス部門は、顧客規模や対応モデルに応じて、以下の3つの主要セグメントに分けられます。それぞれが異なる顧客ニーズに対応するための専門的な役割を果たします。
ハイタッチ(High-Touch)モデルは、大規模な顧客や戦略的に重要な顧客を対象としています。これらの顧客は企業の収益に大きな影響を与えるため、専任の担当者によるきめ細やかな対応が求められます。このモデルでは、高度にカスタマイズされた1対1のサポートが提供され、顧客との緊密な関係を築き、長期的な信頼を育むことを目指します。
通常、以下の役割を担う専任を設けるケースが多いです。
対象顧客は中規模の顧客やミッドマーケットの顧客で、頻繁な個別対応が難しい状況に適したモデルです。このモデルの特徴は、効率的な1対多のサポートを提供し、ウェビナーやグループセッションを活用して顧客全体に統一された情報を届けることです。また、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)が複数の顧客を管理し、利用促進や成功支援を行う役割を担っています。ハイタッチな対応とテックタッチな対応のバランスを取ることが求められます。
小規模で顧客数が多い場合や、拡張性のあるサポートが求められる顧客に適しており、コンテンツや自動化ツールを活用して積極的にサポートを行います。このモデルは、人的リソースを最小限に抑えつつ、多数の顧客に対応することが可能です。製品内通知やメールキャンペーンを通じてセルフサービスを促進し、顧客データの分析に基づいて個別にカスタマイズされた自動化対応を実現します。
カスタマーサクセス部門を支援するCS Opsは、顧客成功に関するデータを追跡し、チームの成果を可視化するためのKPIやデータの管理を担当します。また、顧客ニーズや組織目標に応じたカスタマイズされたプロセスを作成し、プロセス設計を行います。さらに、CS活動に使用するツールを管理し、効率性を向上させるためにツールやシステムの最適化を行います。これらの活動を通じて、Revenue Operationsはカスタマーサクセスが営業やマーケティングと一体となり、収益向上を目指した包括的な戦略を推進するための重要な役割を果たします。
カスタマーサクセスは、顧客の成功を支援し、企業の収益成長を促進する戦略的な役割を担います。本記事では、その基本概念や組織構造、活用ツール、パフォーマンス評価について解説しました。効率的な顧客対応を実現するためには、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチといったモデルや、CRMや自動化ツールの活用が重要です。また、顧客データを一元管理し、部門間の連携を強化することで、一貫性のある顧客体験を提供できます。カスタマーサクセスを事業の中心に据えることで、企業は持続可能な成長と市場競争力を高めることができます。