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CS Ops(カスタマーサクセスオペレーション)を徹底解説:役割・重要性・導入方法・課題・他部署との連携について解説

CS Opsとは

顧客との長期的な関係構築と価値提供を担うカスタマーサクセスの重要性が急速に高まっています。しかし、カスタマーサクセスチームが拡大するにつれて、個々のカスタマーサクセス担当者(カスタマーサクセスマネージャー:CSM)だけでは効率的に業務を回せなくなる課題も出てきました。そこで注目されているのがCS Ops(CSオプス)です。ここ数年、営業やマーケティング部門で浸透し始めている「○○ Ops(オペレーション)」の考え方がカスタマーサクセスの領域にも広がり、CSチームの成果を最大化するための専任オペレーション役割としてCS Opsを設置する企業が増えています。

本記事では、CS Opsの全体像を理解し、CSチームのスケールに役立つ情報をお届けします。定義や導入のタイミング、プロセス、さらにCS Opsが直面しやすい課題まで詳しく解説していきます。CS Opsを正しく理解し、適切なタイミングで導入することが、貴社のカスタマーサクセスをより戦略的かつ効率的にスケールさせるための参考としてぜひお役立てください。


CS Opsとは?CS Opsの定義と役割

CS Ops(Customer Success Operations)の基本的な定義と役割について明確にしましょう。CS Opsは"Customer Success Operations(カスタマーサクセスオペレーション)"の略で、「CSオプス」と呼びます。CS Opsは文字通りカスタマーサクセスのオペレーション業務を担う専門チームまたは担当者のことで、カスタマーサクセス部門の活動を組織し最適化する役割を果たします。言い換えれば、CSチームが円滑に機能し、顧客への価値提供を効率的かつ一貫して行えるように裏方から支える存在です。

CS Opsの定義

Screenshot 2025-03-27 at 8.02.42CS Opsの役割は、単なる事務処理の効率化ではありません。CS Opsの最も大きな使命は「カスタマーサクセスチームが戦略を立てるための基盤づくり」にあります。カスタマーサクセス全体の最大のミッションは顧客と良好な関係を長期的に築き、顧客生涯価値(CLTV)の最大化することです。CS Opsは、このミッションを達成するために、顧客のライフサイクル全体を通じて、CSMが最高の顧客体験を提供できるよう、綿密なサポートを行います。データの収集と分析、戦略立案のサポート、業務プロセスの最適化など、さまざまな役割を担っています。

具体的には、以下のような観点でCS部門を支援・強化します。

  • データの活用と分析:
    • 顧客に関する多様なデータ(利用状況、契約情報、ヘルススコアなど)を集約し、経営層やCSリーダーが戦略を立てたり、意思決定ができるように分析結果を提供します。CS Opsはデータという羅針盤でCS戦略をナビゲートする重要な役割を果たします。
  • 業務プロセスの標準化:
    • 顧客オンボーディングや定期的なビジネスレビュー(QBRやEBR)など、CSチームが行う各種プロセスを標準化します。また具体的なアクション時に使うような「プレイブック(対応手順)」やテンプレートなど組織として再現・共有できるリソースの作成に協力します。カスタマージャーニー全体を俯瞰し、各フェーズでの具体的な手順を明確化・文書化することで効率的な業務遂行を実現します。また標準化することで新任CSMの立ち上げ促進にも繋がります
  • ツール管理と業務自動化:
    • CRMやカスタマーサクセスプラットフォーム、マーケティングオートメーション(MA)、顧客問い合わせシステムなど、CS業務に関わる各種ツールの選定と統合を行います。適切なツール運用により一貫して分析できるようなデータ管理、CSチームのスケーラビリティの向上を実現します。また上記で標準化したプロセスの中から、可能な部分は自動化し業務効率を向上させます。
  • 顧客体験の最適化:
    • カスタマーサクセスの本質は、自社サービスやプロダクトを通して顧客の成功を支援することです。CS Opsは、顧客が製品から期待する成果を確実に得られるよう、障壁を取り除き、スムーズな体験を提供するための仕組みづくりを担います。部署横断の顧客オンボーディング体制の構築や、顧客フィードバックを製品チームに届けるプロセスの設計など、顧客中心のアプローチを推進します。

このように、CS Opsは顧客成功を支える縁の下の力持ちとして、CSチームが持続的かつ拡大可能な形で顧客の成功を実現するための重要な基盤を築いています。CSリーダーが描いたビジョンを、データ、ツール、プロセスを巧みに紡ぎ合わせながら具現化する、まさに戦略実行の要なのです。

CSM(カスタマーサクセスマネージャー)との違い

CSMは顧客と直接向き合い、オンボーディング支援や定期フォロー、アップセル提案など、顧客対応業務を中心に活動します。一方、CS Opsはバックオフィスから、表に出ずにCSMの活動を支える役割を担っています。

組織の立ち上げ期や顧客数が少ない段階では、CSMが自らデータ集計やツール管理などのオペレーション業務も兼任することが多いでしょう。しかし、顧客数が増えチームが大きくなるにつれ、CSMはより多くの顧客対応に時間を割く必要が生じ、オペレーション業務にまで手が回らなくなります。また、規模の拡大に伴い、ツールやデータ管理自体の複雑性も増していきます。このタイミングでCS Ops専門の役割を設け、CSMと分業・連携することで、CSMはオペレーションに費やしていた時間を顧客対応に集中できるようになり、生産性を大幅に向上させることができます。

例えば、CS OpsがCSMのために共通のデータ入力フォーマットやCRMの使用ルールを整備すれば、CSMは迷うことなくデータ登録や情報検索を行え、本来注力すべき顧客コミュニケーションに集中できます。逆に、CS Opsが不在で各CSMがばらばらに管理を行うと、ツールへの入力漏れやデータ不備が発生し、顧客状況の可視化ができず、チーム全体の効率も低下してしまいます。

CS OpsとCSMの連携は必須です。直接顧客の生の声に触れる機会が少ないCS Opsは、CSMを通じて顧客ニーズや課題を適切に把握し、それをもとにプロセスやツールを改善するサイクルが不可欠です。役割は異なりますが、CS OpsとCSMは二人三脚で顧客成功を実現するパートナー関係にあります。

RevOps(レベニューオペレーション)との違い

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次に、最近SaaS業界でよく耳にするRevOps(Revenue Operations、レブオプス)との違いについても掘り下げてみましょう。RevOpsとは、営業、マーケティング、カスタマーサクセスといった収益に直結する部門のオペレーションを横断的に統合し、組織全体で収益最大化を目指す機能のことです。まさに企業の収益に関わるすべてのプロセスを俯瞰して最適化するのがRevOpsの役割です。RevOpsの中には、Marketing Ops、Sales Ops、CS Opsなど、各部門のオペレーションチームが存在しています。

CS Opsは、RevOpsを構成する一部門として、カスタマーサクセス領域に特化したオペレーションを担うチームです。つまり、RevOps = 売上(組織)全体のOps、CS Ops = その中でCS領域を担当するOpsと考えるとイメージしやすいと思います。また、CS OpsはCS部門内の効率化・仕組み化にフォーカスするのに対し、RevOpsは複数部門間の連携やプロセス統合に責任を持ちます。そのため、CS OpsがRevOpsチームと緊密に連携し、自社の収益プロセス全体の整合性を取ることが重要になってきます。

例えば、営業から顧客引継ぎのプロセスや、マーケティング施策による既存顧客エンゲージメント向上策など、CS Ops単独では解決できない部門横断の課題も少なくありません。RevOpsや他の部門(マーケOps、セールスOpsなど)との横のつながりを保ちながら、CS OpsはCS領域の専門家として組織全体の収益向上に貢献していきます。


CS Opsの重要性と導入するタイミング

なぜ今CS Opsが重要視され始めているのか? それはビジネスにおける収益成長のカギが「既存顧客の成功=継続利用と拡大」にあるからです。事実、優れた顧客体験を提供する企業は競合より最大8%多く収益を上げていることがBain & Company社の調査で明らかになっています。事業の成長に伴いチーム規模が大きくなってもカスタマーサクセスが、より良い顧客体験を維持・改善していくにはCS Opsによる仕組み支援が不可欠となります。

スケール時になぜCS Opsが不可欠か

小規模なCS組織(例えばCSMが1~2名程度)では、CS Ops専任を置かなくてもチーム運営は可能かもしれません。CSチーム立ち上げ初期は、まず優秀なCSMを採用し顧客対応に全力を注ぐことが最優先で、オペレーション整備は後回しになることも多いでしょう。ただし、顧客数やCSMの数が増えてチームが本格的に「動き出した」段階に入ると、状況は一変します。

CS OpsがいないままCSチームを拡大しようとすると、非効率な作業や抜け漏れが露呈し、成長にブレーキがかかります。スタートアップ経験者であれば、事業の成長に伴い社内作業の工数が増え、本来の業務に集中できなくなるといった現象は、誰しもが経験されたことがあるのではないでしょうか。業務が煩雑になり、データがバラバラに管理され、プロセスに抜け漏れがある状態で、事業を運用していくのは完全に不可能ではないものの、チームの生産性や精度に大きな支障をきたすことは目に見えています。CS Opsも同様に、一定規模以上のCS組織にとっては成長のための必須アイテムとなります。

一般的には目安として、CSMが5名を超えたらCS Ops導入を検討し、10名を超えるなら経験レベルを問わずCS Ops専任を確保するのがベストプラクティスとされています。それまではCSリーダーやシニアCSMが兼任でオペレーション構築を進め、組織規模の拡大とともに専任化していく流れです。ただし、重要なのは「複数の顧客を獲得した時点から誰かがCS Ops的な視点でプロセス構築を考え始めるべき」ということです。HubSpotのCS戦略&オペレーションマネージャー、Phil Kowalskiも「可能であればフルタイムのCS Ops担当をできるだけ早く置くことで、後々大きなリターンが得られる」と強調しています。早い段階に整備されたツールやプロセスは、新任CSMのオンボーディングをスムーズにし、CSリーダーが日々の雑務から解放され、戦略立案に集中できる環境を生み出してくれるからです。

CS Ops導入のタイミングと組織規模の目安

上記のような見解を踏まえると、CS Opsの導入タイミングとして一般的に検討され始めるのは次のようなフェーズです。

  • CSMが数名から5名程度になった段階
    • 属人的だったCS手法を体系化しないと、CSM間で対応品質や使うデータがバラバラになり始めます。5名という規模はチームとして標準化が必要になるタイミングと考え、この時点でCS Ops担当の採用・任命を検討しましょう。
  • 顧客数・契約数が順調に拡大している段階
    • 顧客オンボーディングや定着化施策をより効率よく回す必要性が高まります。例えば、ハイタッチで対応すべき顧客数が急増したり、あるいはロータッチ・テックタッチ戦略への移行(デジタルCS)を図りたい場合などは、CS Opsによるプロセス設計・ツール活用がスケールの鍵となります 。
  • 自社の「理想的顧客プロファイル(ICP)」が見えてきた段階
    • 蓄積データからどの顧客に注力すべきか戦略が明確になると、それを実行に移すためのオペレーション改革が必要になります 。CS Opsがいれば、既存チームを高い再現性をもってスムーズに戦略遂行できる形に作り変えることが可能になります。
  • CS部門が扱う業務範囲・責任が拡大した段階
    • 近年では顧客対応や更新対応だけでなく、アップセル・クロスセルなどカスタマーサクセスが担う役割が年々拡大しています。このような状況の中で全ての役割を各CSMに属人的に任せることは、生産性だけでなく顧客体験の安定性が損なわれます。CS Opsを設けて、業務プロセスを整備したり、データを使った自動化で業務を効率化することが必要になります。

重要なことは、CS OpsはCSチームが小さくシンプルなうちは不要だが、大きく複雑になる前に早めに導入することです。拡大すればするほど導入コストが大きくなり、より導入しにくくなる点は注意が必要です。はじめは専門人員でなくてもいいので、上記タイミングで導入を検討しましょう。

CS Opsを導入するメリット

CS Ops導入によって具体的に得られるメリットも整理しておきます。主な利点は次のとおりです。

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  • チームの生産性向上:
    • CS Opsがプロセスやツールを整備することで、CSM一人当たりが対応できる顧客数や提供できる価値が増大します。「5人のCSM+1人のCS Ops」の体制は、「6人のCSM+CS Ops不在」よりも高い成果を上げられるといわれております。それだけOpsによる効率化効果が大きいです。
  • 顧客体験の向上・均質化: 
    • 属人的な顧客対応のまま規模を拡大すると、対応のクオリティにバラつきが生じ、全体的な顧客体験が下がってしまいます。誰が担当しても一定水準の丁寧なフォローが受けられる状態を作れば、顧客満足度も安定的に上がります。結果的に、チャーンレート(解約率)の低減やネット・リテンション率(NRR)の向上といった成果が期待できます。スターCSMがいなくなるなどのリスク対策となります。
  • データに基づく戦略意思決定:
    • CS Opsが統合した顧客データ基盤と分析レポートにより、経営層やCSリーダーはエビデンスに基づいた意思決定が可能になります。例えば「オンボーディング完了までの日数を短縮すると半年後の更新率がどれだけ上がるか」といったことを、データを元に測定・予測し、リソース投下すべきかを判断するデータドリブン経営を支えます。
  • CSリーダーの戦略フォーカス:
    • CS Ops担当が日々の運用管理や数値トラッキングを引き受けることで、CS部門の責任者はより長期的な戦略や顧客価値向上策の立案に時間を使えるようになります。これは組織全体のイノベーションや付加価値創造に直接つながります。
  • 他部門との調整負荷軽減:
    • CS Opsがいない場合、営業やマーケティングとのデータ連携・施策連動はCSMやCSリーダー自身が対応しなければなりません。CS Opsは、そうした他部門とのハブとなり、顧客情報の一元管理やアップセル機会創出フローなど、クロスファンクショナルな課題に主導的に対処することが可能になります。

さらに付け加えると、市場における潮流としてもCS Opsに投資する企業は高成長を遂げていることがデータで示されています。Gainsight社の2022年調査では、CS Ops(カスタマーサクセスオペレーション)チームに投資している企業は、売上や企業価値の伸びも大きいという傾向が報告されています。実際に回答企業の61%がCS Ops機能を「明確に定義済み」または「現在構築中」と回答しており、CS Opsへの認識と導入が急速に広がっていることが分かります。このような背景からも、競合他社に遅れずカスタマーサクセスを本格的にスケールさせるにはCS Ops導入が鍵となってきております

次章では、具体的にCS Opsはどのような課題を解決するのかを説明します。


CS Opsがよく直面する課題

CS Opsがカスタマーサクセスチームを支援する中で、実際には多くの課題に直面します。CS Opsは広まってきてはいますが、比較的新しい職種であり、まだ業界基準のようなものはなく企業によって定義や役割が異なるため、明確な成功モデルがまだ存在しないのが現状です。特に、以下のような課題は多くのCS Opsチームが抱える共通の悩みとなっています。

データ統合の複雑さへの対処

CS Opsでは、CRM、マーケティングオートメーション(MA)、サポートチケットシステム、プロダクト利用分析など複数のデータソースを扱うことがほとんどです。これらのデータは部署ごと・ツールごとにサイロ化(孤立化)されていることが多く、顧客の全体像を把握する(360度ビュー)を得る妨げとなっています。特に、複数事業を持つ規模の企業では顕著に起きています。事実として、企業の約75%ですでにデータのサイロ化が発生しており、それが社内連携の阻害要因となっていると報告され、「会社全体で情報へのアクセスを改善できた」と答えた企業はわずか1割強という調査があります。さらにその74%が競争上の不利になると感じているという結果もあります。要因としては、その約65%が「企業文化自体がサイロ化を起こしている」、71%が「部門が知識を共有したがらない」、また「データを格納している場所もしくはツール自体が連携に不向き」という点が課題に挙げられています。こうした文化面・技術面双方の障壁により、データ統合は非常に困難になっています。

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データが統合されない弊害は定量的にも表れています。マッキンゼーの研究では、データのサイロ化による非効率で毎年3.1兆ドルもの収益損失と生産性低下が生じていると試算されています。現場レベルでは、必要な情報を各システムから探し回る無駄な時間や、部門間で顧客情報が共有されないことによる対応ミス・重複対応などが日常的に発生し、顧客対応の質とスピードに悪い影響が出てしまっています。また、サイロ化したデータでは利用状況や満足度など顧客の変化に気づきにくく、組織全体が問題を予防できず後手に回ってしまう原因にもなります。

データ統合を実現するアプローチとしては、いくつかの選択肢がありますが、近年では「カスタマーサクセスプラットフォーム(CSP)」の活用が注目され始めています。CSプラットフォームはCRM、サポートツール、プロダクト分析など主要な業務システムとネイティブに連携できるようにしており、アンケート結果やAI分析による顧客体験データまで統合してヘルススコアに反映できます。例えばGainsightなどのCSPはCRMなどと簡単に連携ができるコネクタをすでに備えており、ログインとクリックと操作で各種データソースを同期することが可能になっています。同期後は自動的にデータのやり取りがされるため、CS Ops担当者は煩雑なデータ抽出作業から解放され、複数ツールに分散していた顧客データを一つの画面で俯瞰して確認できるようになります。

さらに高度な管理や分析を行う場合は、CSP以外にもデータウェアハウスの活用やAPI連携での統合によるCDPの構築をしている企業もあります。データエンジニアが、社内のCRM・プロダクトDB・サポートDB等の全てのデータをSnowflakeやBigQueryなどのデータレイクやウェアハウスに集約し、そこで分析や必要に応じ各アプリへのフィードバックを行う方法です。Fivetranのようなデータ移動プラットフォームを用いれば、SalesforceHubSpotZendeskなど各種SaaSから継続的にデータを吸い上げて集中保管することもできます。さらにAPI連携が難しい場合は、ZapierなどのiPaaS(統合プラットフォーム)を介してアプリケーション間のリアルタイム同期を構築する方法もあります。これにより、あるシステムで更新された顧客情報が他のシステムにも自動反映され、データの一貫性を保つことができます。

ただし、これらのツールは比較的高単価で、組織規模が一定以上でないと人的にも金銭的に運用が困難です。スタートアップの場合は、まずHubSpotのような規模が小さくても使いやすいCRMを使って、リードや営業案件だけでなく既存顧客の情報まで一元管理することが重要です。CRMでデータを一元管理しておくと、事業がスケールした際、スムーズにCS専用プラットフォームやCDPを構築できます。500社以上のCRM構築支援をする中で、初期段階でスケールする時のことを考えずにデータ管理を行ったためデータが煩雑となり、組織の拡大時やCSプラットフォームやCDPを導入するタイミングで、データ整備に多大な時間がかかることになりプロジェクトが遅れるケースを見てきました。

データ統合に成功すれば顧客対応の精度とスピードが上がり、業績改善にも貢献が可能となります。データのサイロ化や統合の複雑化はITインフラの問題ではなく、顧客維持や収益拡大に直結する戦略課題となります。CS Opsによるデータ管理は、このような社内のデータサイロを解消し、必要な情報を適切な担当者へ届け、顧客への提供価値を最大化する役割を担っています。

リソース不足と適切な人員配置

多くの企業で、カスタマーサクセス部門は慢性的なリソース不足に悩まされています。顧客数や契約金額が増えてもCSの人員は十分に増強されず、一人のCSMが抱える顧客数が膨れ上がるケースが少なくありません。現状、Fullstarの調査によるとカスタマーサクセス1人あたりの担当顧客数は平均97社とされていますが、100社以上担当している企業も少なくありません。またグローバルの全体的なトレンドをみるとその数は増加傾向にあり、個々のCSMの負担がより大きくなることが予想されます。

また、CS Opsのチーム体制もまだまだ発展途上で、専任の組織を持っていたとしてもそのほとんどが新設でまだ本格的に成熟した組織ではありません。実際、Custify社の調査によれば正式なCS Ops専任担当として役割についている人は回答者の9.2%に過ぎないのに対し、68.6%もの人が何らかの形でオペレーション業務の責任を負っていると回答しています。このように、人員不足の穴埋めとして現場が非効率な負担を強いられているのが現状です。

人員不足の影響はすでに現場の声として表面化しており、CSMの66%が「日々の業務のかなりの時間を繰り返しの事務作業に費やしている」と回答し、63%が「もっと顧客対応に時間を割きたい」と思っています。本来なら自動化や専門スタッフ配置で省力化できる内部作業に、多くのCSMが時間を取られ肝心の顧客支援が圧迫されているのです。

その影響か、カスタマーサクセスのバーンアウト比率は高く、約半数のCSMが仕事でバーンアウトを経験していると報告されており、グローバルでも問題視されてきており企業の早急な解決がもとめられています。

そこで鍵となるのが、適切な人員配置戦略とオートメーションの活用です。まず、人員計画としてはCS Opsの配置基準を明確に定めることが重要です。前述したように、Gainsight社は「CSMが5名以上になったらCS Ops専任を置くタイミング」と提言しており、加えてCS全体予算の約10%をCS Opsに充てるべきだとしています。

またリソース不足を補う手段は人を増やすだけではありません。予算や人員に制約がある場合、テクノロジーによる自動化・効率化が強力な味方になります。たとえば繰り返し発生する定型業務(毎回送っているオンボーディング時のウェルカムメール送信や定期チェックインのリマインドなど)は、ワークフロー自動化ツールやRPAを用いて自動化できます。

近年の技術進歩に伴いAIの活用も進みつつあり、顧客の利用状況や問い合わせ内容から離反リスクを予測するモデルを構築すれば、CSMが手動でヘルスチェックする手間を省けます。最近ではサポートログをNLP(自然言語処理)で解析して顧客感情スコアをリアルタイムに算出し、CS Opsとサポートを一体運用している企業も出てきています。

さらに、BPO企業に一部のプロセスをアウトソーシングを選択する企業も出てきました。データ整備や定期的な低タッチ顧客へのフォローコールなど、マニュアル色が強くスキル汎用性のある業務は外部委託することで、社内のCSチームはハイタッチ施策や戦略立案に専念できます。例えば、非エンタープライズ顧客のオンボーディング支援を専門のBPO業者に委ねることで、CSチームの稼働時間やスキルを重要度の高い業務に再配分できます。またこういった外部委託を受け入れる企業自体が日本でも増えていきています。

経営陣に対するOpsの必要性の理解促進

CS Opsへの投資価値を経営陣に理解してもらうには、データに基づく明確なROI(投資対効果)とビジネスへの貢献を示すことが不可欠です。近年では、カスタマーサクセスが売上・収益に与える影響について定量的な知見が貯まりつつあります。Forrester社の分析によれば、カスタマーサクセスプログラムに投資した企業は3年で107%のROIを達成したとされています。このモデルでは、専門のCSチームを置くことで顧客維持率(リテンション)が5ポイント向上し、アカウントあたり収益が6%増加したことが主要な利益要因となりました 。また、GainsightがRevOps Squaredと実施した調査でも、NRR(ネット年間収益維持率)が最も高い企業群は、自社のCSMおよびCS Opsチームに売上の10%を投じているという興味深い相関が報告されています。言い換えれば、トップクラスの収益成長企業ほどCSへの投資を惜しんでおらず、それが高いリテンションと顧客拡大に結びついている可能性を示唆しています。

しかし多くの経営者はCS自体の重要性の認識がまだ低いようです。Customer Success Collectiveの「2024年CSリーダーシップ現況レポート」によると、約35.4%のCSリーダーが「自分たちの役割はC-suite(経営幹部)に評価されていない」と感じていることが明らかになりました。約3人に1人のCS責任者が経営層との間に認識ギャップを抱えている計算で、この背景には「目標やKPIの不整合」「成果の可視化不足」「組織内での位置づけの低さ」などがあると分析されています。経営陣から十分な支持を得られない場合、CS部門は予算やリソースの配分で後回しにされがちで、成長ドライバーではなくコストセンターとみなされている傾向にあります。特にCS Opsのような間接部門は、一見すると売上を直接生み出す存在ではないため、なおさら投資優先度が低く見られてしまう傾向があります。

経営層からの理解を得るのに最も有効なのは、他部門の例と対比しながらCS Opsの価値を訴求することです。CS Opsを導入する際、ほとんどの場合、すでに営業部門でSales Ops(営業オペレーション)、全社横断で収益管理を行うRevOps(レベニューオペレーション)など、別部署でOps部隊を設けていることがおり、その部署では既にOpsの重要性が確立されています。Miller Heimanのデータでは、約2/3の営業組織が専任のSales Opsチームを擁しているとされており、営業担当者の85%がSales Opsを戦略的に重要と認識しています。レベニューオペレーション(RevOps)も急速に普及しつつあり、2022年時点で企業の48%がRevOps機能を有しており前年比15%増加しており、Gartner社は「2025年までに高成長企業の75%がRevOpsモデルを採用するとも予測していますこのように、「営業やマーケティングを成功させるには優れたOps体制が不可欠だ」ということは経営層でも大きく認識され始めています。CS Opsも同様で、質の高いCSMがいても裏方の仕組みや分析がなければパフォーマンスを最大化できません。優れた営業担当がツールや分析によって売上を倍増させるのと同じように、CSMも優れたOpsの支えがあればその価値提供を何倍にも拡大できるのです。経営陣に対しては、この点を他部門の成功と絡めて説明すると説得力が増すでしょう。

さらに経営陣からの理解を得るには、CS Opsの成果を可視化することが必要不可欠です。具体的には、CS Opsがもたらした効率化や収益効果を数字で示すことが挙げられます。ほとんどの場合、CS Opsを設立するまではCSメンバーが兼務で対応しているはずです。可能な限りプロジェクト化し、経営陣に伝えるための準備をしましょう。兼務しながらの対応は負荷が大きいですが、将来的にCSチーム一人一人の負荷が分散できるので、是非早い段階から取り組んでいただければと思います。

また経営陣はNPSやオンボーディング完了率といった細かな指標よりも、NRRやLTVなどの財務インパクトに直接影響のある指標に注目します。近年のCSチームはこのような財務インパクトの大きい指標もKPIに組み込まれるようになってきいるため、報告をする際は、できるだけ経営に直接影響がある数字に紐づけることを心がけましょう。このような指標を用いて経営陣が使う言葉遣いで共有することで、彼らの合意が得られやすくなります。

例えば、このようなデータや言い回しはいかがでしょうか?

  • CS Opsが解約アラートの条件を決めアラートの自動化を実施。そのアラートをベースにCSMが対応した結果、解約率がX%からY%に減少。
  • オンボーディング完了後のプロセスを整備し、エクスパンションのプレイブックを作成したことでCSQLがX%上昇
  • オンボーディング業務を標準化し外部のBPO企業に委託したことで、NRRのパフォーマンスを落とさずコストをY%カットした

このような実績の共有で、CS Opsに投資することでより少ない増員で顧客基盤を拡大できることを示しましょう。

最後に、経営陣の理解を得るには上記のような実績の積み重ねと、継続的に伝え続けることが大切です。最初は小規模なプロジェクトでも、CS Opsの取り組みで得られた成果を定期的に経営会議で報告し社内で共有しましょう。例えば四半期ごとに「このクオーターはヘルススコア導入でハイリスク顧客20社を救出し、MRR約XX円のチャーンを防ぎました」「ナレッジ共有の仕組み化で新人CSMの立ち上がり期間を半減できました」などと報告するうちに、経営層もCS Opsの価値を肌で感じ始めます。そのうえで追加投資の提案を行えば、最初から理解がない状態に比べスムーズに承認が得られる可能性が高まります。経営陣は数字と事実に基づくストーリーを求めています。CS Opsを導入・強化することでデータドリブンな意思決定ができるようになることを証明しましょう。

以上のようなデータ・比喩・具体策・事例を組み合わせてプレゼンし、経営陣に「CS Opsへの投資は単なるコストではなく、将来の収益ドライバーへの戦略投資である」という認識を持ってもらうことが肝です。経営トップの理解とコミットメントが得られれば、CS Ops導入プロジェクトはスムーズに進むでしょう。


CS Opsチーム構築に必要なこと

ここでは実際にCS Opsを立ち上げるにはどのような手順を踏めば良いか、そして導入にあたってどんな点に注意すべきかを解説します。CS Opsチーム(または担当者)を新設する際の一般的なステップやツール、担当に求められるスキルセット、さらには他部門との連携について解説します。

CS Ops立ち上げのステップ

CS Opsを新たに導入する場合、以下のようなステップで進めるとスムーズです。

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1. CS Opsの役割を定義する

まず、カスタマーサクセスオペレーションズが組織内で何を担当するかを明確に定義することから始めましょう。CS Opsはカスタマーサクセスチームをより効率的かつ効果的にするための裏方の作業を担当します。

主に考えられるCS Opsの役割は、上述したようにデータの活用と分析、ツール管理と業務自動化、業務プロセスの標準化、顧客体験の最適化などです。経営層や他部署のチームに対して、CS Opsはカスタマーサクセスプロセスを合理化し運用サポートを提供することが役割であることを理解してもらってください。この定義を最初に設定することで、CS Opsチームが焦点を絞った任務と適切な賛同を得ることができます。

2. CS Opsでの成功指標を決める

CS Opsが何を達成したら成功と捉えるかを定義します。よく使われる指標には、顧客の満足度やCSMの生産性の向上、さらにはNRRやGRRの改善があります。経営や事業運営に直接的なインパクトがある数字をKGIとし、それを達成するためのKPIとしてさらに細かな指標を掲げるのが一般的になりつつあります。

例えば以下のような指標の作り方です。

  • KGI (Key Goal Indicator)
    • CLV
    • NRR/GRR
    • チャーン率
  • KPI(Key Performance Indicator)
    • CSQL数
    • プロダクト利用率
    • オンボーディング完了率(もしくは完了までの期間)
    • Time-to-Value
    • NPS/CSAT

明確な目標とKPIを設定することで、CS Opsチームに向かうべき目標と、その影響を示す方法を提供します。効果的なCS Ops機能はデータを使用してCLVを増加させ、顧客へのサービス提供コストを削減し、最終的にはネット保持率を向上させます。

3. チームを採用・構成する

CS Opsのために誰をいつ採用するかの人的リソースを決めます。基本的にはCS Opsの採用は、顧客数もしくはCSMの数が一定以上になった時に始まります。目安としては繰り返しになりますが、CSMが5人以上になりマニュアルでのプロセスに無理が生じてきた段階です。最初はCSMマネージャーやチームリーダーが、兼務としてCS Opsを担うことになるでしょう。兼務をしながら具体的にCS Opsに注力してもらいたい部分を明確にします。多くの場合、データの格納場所がバラバラで一貫したデータ分析ができないことやプロセスが属人化しておらずスケールできる状態にないことが大きな障害となっているでしょう。採用をする際は、こういった点の経験値が高い人を採用するか、社内からプロセス等に精通している人を選ぶのが良いです。最初は一人で決めた役割全般を担ってもらうことなるので、柔軟に動ける人が望ましいでしょう。

事業規模の拡大や時間の経過とともに、CS Opsの各役割の専門家を採用します。例えば、データアナリスト(データとレポートに焦点を当てる)や、テクノロジースタックを管理するCS Toolsアドミニストレーターまたはシステムスペシャリストなどの専門部隊が考えられます。その時のチームのニーズに合わせてCS Opsを構成してください。

またCS Opsを組織化する場合は、レポートラインを明確にしてください(CSチームの責任者かRevOpsチームの責任者になることが多いです)。これにより、変更を実施するための権限とプロセスを持つことが可能になります。重要なのは、CSMや顧客数・規模の成長に合わせて十分なCS Opsの機能を用意し、CSMが動きやすい状態を作るためにチームを拡大することです。

4. 現状を可視化する

CS Opsチームとプロセスがまずは現状を把握するための環境作りに取り掛かります。ステップ2で決めた指標に対して、常時状況を把握できるようにCRMやCSP上でダッシュボードを作るなどして可視化します。CS Opsを採用する際に多くの企業が、この可視化ができていないことが多いです。

可視化をする際に、上記のKGIとKPIを両方とも表示できるようにすることが大切です。基本的にはKGIは成果指標(lagging Indicator)となることが多く、結果に現れるまで時間がかかります。一方で、KPIは先行指標(leading Indicator)としてすぐに結果に現れる指標として使われるためです。先行指標の良し悪しが、長期的には成果指標の良し悪しに影響します。

例えば、ダッシュボード上で常時CSQLやオンボーディングの完了状況が監視できる状態であれば、「CSQL数が減少してきている」「顧客のオンボーディング完了率も減ってきている」ことが察知できます。このトレンドが続けば、将来的にNRRの低下に直結することは明白なので早急に対策を練る必要があります。

このようにダッシュボードとレポートを使用して結果を監視できるようにし、CSMやその他の関係者から定期的にフィードバックを収集します。CS Opsはカスタマーサクセス組織を「内部顧客」として扱い、何がうまくいっているか、またはどこにボトルネックがあるかについての意見を収集し続けます。

5. 課題の選定と改善施策を行う

現場の把握ができるようになったら、具体的に対応する課題を決め改善策を考えます。CS Opsは常に会社やチームの課題を見つけ解決に努める必要があります。特に経営課題を見つけ一つずつ解決していくことで、CS Opsの価値が高められます。

具体的なプローチとしては、CS責任者や他部署と連携し、KGI上の課題から、業務プロセスの課題まで掘り下げ、具体的な業務プロセスやデータの整備施策を行うことが一般的です。

例えば、GRRの低下やチャーン率が向上していることが問題視されている企業で、契約してからの数ヶ月後の利用率と更新率に明確な相関関係が見られることがあります。この場合は、契約直後から数ヶ月(主にオンボーディング期間)のCSチームの支援内容について分析すると課題が見つかることが多いです。典型的な例だと、オンボーディング中の支援が属人的で支援内容に抜け漏れが発生しているケースです。このような場合、オンボーディングプロセスの標準化が効果的となります。契約後の営業からの引き継ぎ方法(どのような顧客情報が必要か、顧客のやりたいことは?、営業も含めたキックオフミーティングを行うか?など)を決め、顧客にとっての成果を達成するためのマイルストーンの組み方、どのようにして短期間で価値を感じてもらうか(Time-to-Value)を標準化します。またこれらの基本情報やコミュニケーションの記録を、CRMやCSプラットフォームにどのように記録するのかも決め資料としてまとめます。

このような形で、CS Opsはプロジェクトベースで個々の課題を選定し、業務構築をしたり改善を行なっていくことになります。

CS Opsに必要なスキルセットと知識

CS Ops担当者(あるいはチーム)に求められる主なスキルセットは以下の通りです。

Screenshot 2025-03-30 at 7.59.06カスタマーサクセス業務の理解:

    • CS Opsは裏方とはいえCSの目的は「顧客成功の実現」であり、その文脈を理解していなければ的外れな支援になってしまいます。顧客とのエンゲージメント方法、オンボーディングの勘所、解約につながる要因など、CSMとしての実務経験や顧客視点があることが望ましいです。
  • データ分析力:
    • CS Opsの武器はデータです。各種KPIの定義からレポート作成、データに基づく洞察抽出まで、データを扱うスキルは必須と言えます。具体的には、ツール上もしくは、ExcelやGoogleシートでの集計・可視化はもちろん、必要に応じてSQLでのデータベース抽出やBIツールの操作、統計分析の基礎知識などはOpsをやっていく上で非常に有利となります。
  • 業務プロセス設計力:
    • 現場ヒアリングを通じて問題点を見つけ出し、新しい業務フローやルールを設計する力です。プロジェクトマネジメントやコンサルティングに近いスキルとも言えます。全体最適の視点を持ちながら細部の手順も詰めていける、論理的思考力とドキュメンテーション力が求められます。
  • ITリテラシーとツール活用力:
    • CS Opsは様々なシステムを扱うため、ITツールに対する習熟度が高いほど活躍できます。以下でお話するCRMやカスタマーサクセスツールの管理・設定スキル、APIやデータ連携の知識、場合によっては簡単なスクリプト作成(例えば自動通知用のスクリプト)なども役立ちます。新しいツールをキャッチアップする学習意欲も大事です。今後は生成AIなどに関する基礎的な知識も必須となるでしょう。
  • コミュニケーションと調整力:
    • CS OpsはCSMや他部署との間に立つハブ的な役割でもあります。現場の声を傾聴しつつ、経営視点で提案を行うといった双方向の調整力が求められます。相手側の考え方をよく理解し、双方の意見の間でよい解決策を見つけ出す必要があります。部門を横断したプロジェクトを推進するリーダーシップや、プレゼンテーション・説明能力もあるとなお良いでしょう。

CS Opsで活用するツール

CS Opsが業務で活用するツールは、自社のビジネス・フェーズ・規模によって大きく異なりますが、こちらでは代表的なものを解説します。

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  • CRM:
    • リード情報、顧客情報、契約、商談などを一元管理する顧客管理基盤です。代表的なものにSalesforce、HubSpot、Microsoft Dynamics 365 などがあります。多くの企業で既に導入済みですが、CS OpsはCRM上でのCS向けカスタマイズ(項目設計やワークフロー構築)や他システムとのデータ連携を管理します。
  • マーケティングオートメーション(MA):
    • メール配信やスコアリングなどマーケティング用途だけでなく、既存顧客への定期情報提供や利用促進キャンペーンにも使われます。HubSpotやPardot、Marketoが国内でも主流です。ほとんどの場合、上記CRMと連携させることが必須となります。リードや顧客の状況に応じて、自動的にコミュニケーションを取れる便利なツールではありますが、CRM上のデータ管理や自動化の設計ができていないと単なるメール送信ツールとなってしまう可能性があります。
  • カスタマーサクセスプラットフォーム(CSP):
    • CS業務に特化した統合ツール群です。契約更新管理、ヘルススコアリング、顧客コミュニティ構築、プロダクト利用解析など用途は様々です。日本ではGainsightが最も有名ですが、MagicSuccessなど国内発のCSPも出てき始めています。またCommune(コミュニティ構築)のような特化型のツールも出ているため、CS Opsは自社の課題に合わせて最適なツールを選定・導入し、その運用を担います。
  • データ分析・BIツール:
    • 膨大なデータを可視化し分析するためのツールです。Excelで足りない高度な分析は、Tableau、Looker Studio、Microsoft Power BIなどのようなBIツールが威力を発揮します。CS Opsはこれらを駆使して経営層向けのダッシュボードを作成したり、顧客利用パターンと継続率の相関を分析したりします。高度なITスキルが要求されますが、使いこなせばCS施策の効果を分かりやすく示すことができます。
  • 問い合わせ管理・サポートツール:
    • 顧客からの問い合わせを一元管理するツールで、対応の効率化に使います。Zendeskなどが代表的です。近年ではCRM自体が問い合わせ管理機能やプロダクトを持つことも増えてきています。サポートチームがある場合は、独自に管理ツールを導入していることが多いですが、大切なことははCRMやCSPと連携ができておりCSM活動に利用できるようになっていることです。CS Opsは問い合わせ対応フローの整備や、問い合わせデータとCSM活動との連携(例えば重要クレーム発生時にCSMへ自動通知)などを設計します。問い合わせ件数が増えても抜け漏れなく迅速に対応できるよう、ツールを活用して工数削減と顧客満足度向上を両立します。

以上のように、CS Opsは複数のツールを組み合わせてエコシステムを構築する「システム統合の司令塔」の役割を担います。自社のIT環境や他部署のシステムも考慮しながら、最適なツール群を選定・運用していくことが求められます。ツール選びに迷った際は、各カテゴリの導入目的を整理し、「解決したい課題に直結するか」「既存システムとの相性は良いか」「ユーザー(CSM)が使いやすいか」といった観点で評価すると良いでしょう。

またツール運用で重要なことは、利用するツールの数はできるだけ少なくすることです。ツールの数が多くなればなるほど、データの管理が複雑で煩雑になりやすくサイロ化していきます。最近はCRMやCSP自体に多くの機能が追加されており、細かなツールはそれらで賄えることも増えてきています。Opsの観点からすると可能な限りデータ連携がスムーズに行え、管理しやすいエコシステムの設計は大きなミッションの一つです。

他部門(セールス・マーケティング・RevOpsなど)との連携

CS Opsチームにとって社内の他部門との連携や協調は必須業務となります。カスタマーサクセスは顧客ライフサイクルの後半(ポストセールス)を担う部門であるため、前半を担うセールスやマーケティングとの連動は特に重要です。またCS Ops自体がRevOpsの一部である以上、全社視点で仕組み統合する動きにも参加する必要があります。

セールス部門との連携

多くの場合、カスタマーサクセスにとって営業が最も直接的に関わる部門で、さまざまな状況で接点を持ちます。主な関わりは顧客対応の引き継ぎです。主に以下のポイントで連携が必要でしょう。

  • 契約直後(オンボーディング)
    • 受注後にどの情報をCSに共有するか、キックオフミーティングは誰が主導するかなど、スムーズなオンボーディングを開始するための連携です。CRMのどこにどの情報を入力するかなど、営業からCSへの情報共有に摩擦が生まれないようプロセスを構築します。
  • アップセル・クロスセル
    • 最近ではカスタマーサクセスは顧客の成功に伴い自社製品のアップセル・クロスセルを担うことも多くなってきました。CSが商談機会を発見して営業にパスするCSQL(Customer Success Qualified Lead)という考え方も注目されています。CS Opsは、業務プロセスとしてどのような要件を満たしたら営業と連携するなどの設計から関わります。
  • 更新(リニューアル)
    • 更新時の対応は解約防止に非常に重要です。更新に関するコミュニケーションは、抜け漏れがあるとトラブルの原因にもなりやすいです。一方で、顧客のことを最もよく知るCSMにとって、更新対応の多くを任せられがちで大きな負担となりやすく、放っておくと業務の大半を更新に関するコミュニケーションに充てていることはCSとしてはあるあるでしょう。これによって本来のサクセス業務が疎かになることが頻繁に発生するため、基本的にはよくないことと捉えるべきです。CS Opsは、更新時期の管理や顧客のヘルス管理、コミュニケーションの自動化など、可能な限りスムーズに更新対応ができるようサポートすることが求められます。また、そもそも更新業務の担当が営業かCSか明確でない場合は、CS Opsは役割分担のルール化にも関与する必要があります。
  • 顧客レビュー
    • 事業を持続的に成長させるには、自社プロダクトを正しい顧客に提供し続けることが重要になります。例えば1,000人規模の製造業向けのプロダクトが、従業員7万人を超えるTOYOTAに売れたとしましょう(そんなことは実際起きないと思いますが、、)。この場合、担当するCSMは顧客ブランドや取引サイズを考慮すると、ほとんどの時間をTOYOTA1社に費やすことになります。逆に言うと、その他の担当顧客は放置せざるを得なくなります。自社プロダクトが大企業向けをターゲットにするのであれば問題ないですが、中小規模向けに提供し続ける限り、この状況は長期的なビジネス成長に対して良くないと言えます。こういった場合に、CS Opsは改めてどのような顧客が自社に適しているか正しい顧客の条件を定義し、各チームと連携する必要が出てきます。定期的な顧客レビューの機会を営業・CS間で設け、正しい顧客像の共有が常にできている組織作りを目指しましょう。

マーケティング部門との連携

マーケティングは基本的には新規顧客獲得が主な役割ですが、既存顧客のエンゲージメント向上やコミュニティ醸成などでCSと協力ですることがあります。

顧客向けイベントやユーザー会の開催、活用促進メールマガジンの配信、導入事例の取材・公開などです。CS Opsはマーケティングオートメーションを使った既存顧客への1対多のコミュニケーションを計画・実行する際に、マーケティングOpsチームと歩調を合わせながら進めます。またデータからよりCLTVの高い顧客を見つけマーケティングチームと共有することで、より効果的なターゲティングに貢献することができます。また顧客から得た成功事例や声をマーケティングに提供し、リファレンスとして活用してもらう橋渡し役も担えます。

プロダクト部門との連携

顧客から日々上がる製品に対する要望・フィードバックをプロダクト開発に活かすことは、顧客満足度向上につながります。CS OpsはCSM経由で集まった顧客の声を体系立てて整理し、プロダクトマネージャーへ定期的に共有する仕組み(フィードバックループ)を構築することを目指します。CSMからの生の声や、NPSやCSATのようなアンケートデータ、プロダクトの利用データなどを使い、顧客の声(VoC:Voice of Customer)をまとめ、プロダクトチームにフィードバックします。またCSMが顧客に対して繰り返し行う内容(製品の使い方やオンボーディングプロセス)も、プロダクト上で自動的に行えるようにすることも長期的にビジネスをスケールするためには重要な取り組みとなります。

また、逆に製品の利用データをCS側で活用するためにプロダクト部門と協議することもあります。例えばアプリケーション内でのユーザー行動ログをどう取得・CS Ops側に渡すか、といった技術的連携です。顧客の成功を導き、CLTVを最大化するためにプロダクト上のどんなアクションログをどう取得するのか、そのデータをどのようにCSチームと共有するのかの仕組みを整えます。

RevOps/経営企画との連携

CS Opsは組織横断のRevOpsチームに属するか、あるいは密接に連携する立場となります。したがって、会社全体の収益戦略やKPI設計に関与し、CS部門の状況を他部門と調整する役割も持ちます。例えば、年間計画におけるNRR目標の設定や、その達成に必要な投資(追加人員やツール予算)の算定など、経営層と直接やりとりする機会も多いでしょう。RevOps内の他の機能(Sales OpsやMarketing Ops)とはデータ基盤を共有したり、一貫性のあるレポート作成を行ったりします 。CS Opsを中心に据えて適切なプロセスを組織化することで、企業の目指すビジネス成果を推進できるとも言われています


このようにCS Opsは社内のハブとして各部門と関わるため、自部門最適だけでなく常に全体最適を意識することが大切です。他部門から見れば、CS Opsが入ることでコミュニケーションが円滑になり業務が進めやすくなるというメリットを感じられるのが理想です。


まとめ

カスタマーサクセスの重要性がますます増える中、CS Ops(カスタマーサクセスオペレーション)の役割が注目されています。この記事ではCS Opsに関する定義や導入のタイミング、プロセス、さらにCS Opsが直面しやすい課題について解説しました。CS Opsは、カスタマーサクセスチームの活動を効率化し、顧客との長期的な関係構築と価値提供を支える専門チームとなり、カスタマーサクセスチームが戦略を立てるための基盤を整えることであり、顧客生涯価値(CLTV)の最大化が使命となります。具体的な業務範囲は、データの活用と分析、ツール管理と業務自動化、業務プロセスの設計・最適化、再現性のあるプロセス構築、顧客体験の最適化など、多岐にわたる役割を担っています。CS Opsは、CSMをバックオフィスから支援し、顧客対応に集中できる環境を整えることで、チーム全体の生産性を向上させ、一方でRevOps(レベニューオペレーション)と連携し、組織全体の収益プロセスを最適化する役割も果たします。CS Opsの導入は、特にチームが拡大する際に不可欠であり、適切なタイミングでの導入が組織の成長に貢献します。