養豚生産者向けの農場管理システム「Porker」を提供する株式会社Eco-Porkでは、2026年前半、営業部長とメンバーで、営業とカスタマーサクセスの両業務を担当していました。TSUMAMI CONSULTINGは、同社のカスタマーサクセス組織の設計を支援しています。
支援前の課題
- 事業の海外展開とカスタマーサクセス担当者の異動が重なり、国内の体制を組み直す必要が出ていた。営業部長と営業メンバーが、営業とカスタマーサクセスの両方を兼務していた
- カスタマーサクセスの実務が特定のメンバーに集中し、解約に至るケースや顧客対応が日々の活動を圧迫し始めていた
- AIによるカスタマーサクセスの自動化を進めたが、巻き取れたのは単純な問い合わせへの対応だけだった
実施内容
- カスタマーサクセス担当者へのヒアリングで、業務と判断基準を整理した
- メンバーへのヒアリングとデータ分析から現状を整理し、課題の優先順位を決めた
- ワークショップを2回(3時間・2時間)行い、カスタマーサクセスが顧客に届ける価値(アウトカム)の流れを定めた
- それらを元にカスタマーサクセス組織の再編成と運用方法を設計した
取材時点の変化
- カスタマーサクセス担当者が業務を離れる前に、業務の一覧と判断基準が文書として残った
- カスタマーサクセスが「何の課題をどう解決するか」が整理された
- カスタマーサクセスを営業チームの仕組みとして再起動する方針が固まった
これからの支援活動
- AIを活用した新しいプロダクトも含めて、カスタマーサクセス活動の範囲を広げていく
- ワークショップで定めた価値の流れと設計図をもとに、カスタマーサクセスを営業チームの運用に組み込む
- 新しいカスタマーサクセス担当者を中心に、既存顧客ごとのコミュニケーションを整えていく
記事の前半では、取締役営業部長 兼 CFOの鈴木健人さんへのインタビューで、支援前の状況から依頼の理由、今後の進め方までを伺います。後半では、TSUMAMI CONSULTINGがカスタマーサクセスの再設計をどう進めたかを、フェーズごとに解説します。
取締役営業部長へのインタビュー:なぜ、カスタマーサクセスの設計を外部支援に頼んだのか
支援依頼の背景:営業部長と営業メンバーが、営業とカスタマーサクセスを兼務していた
2026年前半のEco-Porkでは、海外展開に伴って国内の体制を組み直す必要が生じ、営業部長の鈴木さんと営業メンバーで新規獲得と既存顧客対応の両方を担っていました。そのためカスタマーサクセス対応が後回しになり、既存顧客へのフォローが手薄になるリスクが表面化していました。解約に至るケースや、謝罪のための訪問も起きていました。
― 御社の事業について教えてください。
養豚農家向けにシステムを提供している会社です。「Porker」という、いわゆるバーティカルSaaSに取り組んでいます。今後は頭数・体重を測定できるカメラとデータステーションの提供など、豚舎そのもののDX化を開発・提供していく予定です。
事業全体では現在、海外展開に注力しており、アメリカに子会社をつくって営業をしています。国内と海外の両輪で成長を目指しています。
― 支援を依頼する前、カスタマーサクセスではどんな問題が起きていましたか?
国内にも、すでに多くのお客様がいらっしゃいますし、新しいAIプロダクトの販売など着実に事業成長させないといけません。ただ、会社全体として米国展開に力を入れる中で、国内の体制を組み直す必要が出てきました。そこにカスタマーサクセス担当者の異動も重なりました。結果的に今年の前半は、営業部長である私と営業メンバーで、営業とカスタマーサクセスの両方を担う状況になっていました。
その状況を打破するために営業メンバーを新たに採用しましたが、バーティカルSaaSの難しさでもある業界の特殊性をキャッチアップして実務を覚えてもらうために、今度は育成の負担が重くのしかかりました。営業はある程度、力技で伸ばせても、カスタマーサクセスまでは手をつけられず、特定のメンバーに任せきりの状態となっていました。
―ビジネスへの影響は出ていましたか?
出ていました。解約に至るケースもありましたし、そうじゃない場合でも、営業がトラブル対応に時間を割いたり、謝罪のために直接訪問したりする必要がありました。各担当の活動時間の圧迫という意味で、ビジネスに影響を与えていました。
依頼の理由:新人に割り振っても、カスタマーサクセスの属人性は消えない
Eco-Porkがカスタマーサクセスの再設計を外部に依頼したのは、新人を含めて業務を割り振り直しても、カスタマーサクセスの属人性は解消しないと判断したためです。社内にはカスタマーサクセスを標準化するための知見がなく、個人のスキルに頼らざるを得ない状態でした。AIによる自動化ツールも、根本的な問題の解決にはなりませんでした。
―なぜ、社内だけでは解決できないと考えたのですか?
結局のところ、仕組み化するための知見が社内にない(エキスパートがいない)ために、個人のスキルに頼らざるを得ない状況でした。この状況で新人を含めて業務を割り振ったとしても、属人性は排除できないなと思ったときに、外部で知見のある方にしっかりとご依頼をして、設計から入ってもらう。そういったところが必要だと思った次第です。
―AIによるカスタマーサクセスの自動化をする選択肢は、検討しましたか?
最初に考えたのが、カスタマーサクセスの自動化でした。AIでカスタマーサクセスを自動化するツールを導入し、現在も利用中です。ただ、このツールが巻き取れるのは、単純な質問に単純に答える作業だけでした。それはそれで大事ですが、もっと根本的な組織の課題を見つけて、解決できる人がいないなと思ったときに、ご紹介をいただいたというのがお願いした背景です。
選んだ理由:実務経験と勝ち筋の理解、そして柔軟性
外部の支援者に求めたのは、SaaSでのカスタマーサクセス経験、バーティカルSaaSへの対応力、組織や役割を変える選択肢を持って話せることの3点です。複数の候補の中からTSUMAMI CONSULTINGを選んだ決め手は、勝ち筋を人に教えた経験と柔軟性でした。
―外部の支援者には、何を求めていましたか?
1つ目は、SaaSでのカスタマーサクセス経験です。2つ目は、バーティカルSaaSへの対応力です。私たちは、複雑性の高い特殊な業界でもあるからです。3つ目は、戦術や手段の話にとどまらず、組織や役割を大胆に変える選択肢も持ちながら会話できることです。
―複数の候補の中から、TSUMAMI CONSULTINGを選んだ決め手は何でしたか?
決め手は2つです。1つは、勝ちパターンを知っているだけでなく、それを人に教えた経験があることです。もう1つは、柔軟性です。
根本の問題まで相談できる人はなかなかいないと思っていた頃、KOMMONSを通じてTSUMAMI CONSULTINGをご紹介いただきました。候補を見るときに意識したのは、いわゆる型、つまり勝ちパターンを知っていて、そうした会社で一定の経験を積んでいることです。一方で、それを人に教えるのは、また別の行為です。その経験がある方、という軸で見ていました。
―コンサルティングを入れることに、不安はありましたか?
2つありました。1つ目は、この業界の特殊性を本当に理解していただけるのか、という点です。2つ目は、私たちが一気に立て直さなければならない中で、そのスピード感に間に合うのか、という点です。
―実際に支援を受けて、その2つの不安はどうでしたか?
業界を理解しようとしてくださいました。そしてその中で、期待どおりに良いアウトプットを出していただきました。
スピード感については、どちらかというと私たちの都合で、組織やプロダクトの変革に巻き込んでしまった面があります。私たちの側で検討を抱え込んでしまったこともありました。それは私たちの反省ですが、そうした状況にも柔軟に対応いただけたのはありがたかったです。
これから:組織の見直しに合わせて、カスタマーサクセスを仕組みとして再設計する
Eco-Porkは組織の見直しにあわせて、ワークショップの成果物を土台にカスタマーサクセスの再編成を進めています。カスタマーサクセスを含めた営業チームを再設計し、大規模な顧客を中心にする方針で活動中です。
―今後は、どのように進めていきたいですか?
組織改革やスケジュールなど、さまざまなことが動いたので、改めて再編成したいと思っています。そのときには、以前作っていただいたアウトカムワークショップの成果物が生きてくると思います。
組織変革や新プロダクトの投入があるなかでも、カスタマーサクセスを含めた営業チームは継続しますし、大規模顧客に注力していく方針も変わりません。川村さんとの関係も継続します。新しいカスタマーサクセス担当が業務を担っていける組織を構築でき始めている状況です。
―同じような課題を抱える経営者に、TSUMAMIを勧めるとしたら?
バーティカルSaaSは、ホリゾンタルSaaSと比べて属人化しやすいと思っています。シリーズAの後半からBくらいまでは、それでもなんとか回ると思います。ただ、B以降、組織を大きくして上場を目指す中では、どこかで平準化、つまり仕組み化をしていかなければなりません。その初手として、柔軟に対応いただける方です。同じことに悩んでいる企業があれば、ご紹介したいと思っています。
カスタマーサクセス再設計の進め方
TSUMAMI CONSULTINGがEco-Porkのカスタマーサクセス再設計をどう進めたかを、フェーズごとに解説します。各フェーズでは、そのフェーズが必要な理由と、この案件で分かったことを紹介します。一部のフェーズには、鈴木さんの感想も添えています。
全体像:人を補充する前に、「どの顧客に、誰が、最低限何をするか」を決める
最初に置いた問題
支援を始めて最初の1か月のヒアリングで見えてきたのは、カスタマーサクセスの実務が特定の担当者に集中し、営業から既存顧客への能動的なコミュニケーションが不足していたことでした。
支援前からいくつかの仕組み作りはされていました。例えば、問い合わせへのAI自動回答や、利用状況から算出するヘルススコアとアラートはすでに構築されていました。ただし、アラートが「連絡すべきタイミング」を知らせても、誰が何を提案するかが決まっておらず、担当が動ける状態ではありませんでした。また、すべての顧客を同じ優先度で扱っていたため、兼務の営業が片手間でも回せる最小単位の業務も定義されていませんでした。
議論を重ねた中で、まず取り組む問題を「カスタマーサクセス担当者を補充する」ではなく、「どの顧客に、誰が、最低限何をするかを定義し、営業チームでも回せる形にする」としました。
また、カスタマーサクセス担当者の異動が、この時点で決定事項であったため、設計に入る前に、担当者の頭の中にある業務内容や判断基準の整理に最初に取り組むことにしました。
体制と流れ
今回の支援は、週1回の定例を軸に進めています。役割は、Eco-Porkが意思決定と現場の知識、TSUMAMIがプロジェクトの進行、設計、ワークショップのファシリテーションです。実行するのはEco-Porkの営業とカスタマーサクセス担当者で、本プロジェクトでは運用の代行は受託していません。
| フェーズ | やったこと | できたもの |
|---|---|---|
| 1. カスタマーサクセス担当へのヒアリング | ヒアリングによる現状理解と引継ぎ内容の整理 | 業務の全体像と判断基準を文書化、解約の型など |
| 2. 営業担当へのヒアリング | 営業メンバーへの個別ヒアリングと、鈴木さんへの報告 | 既存顧客フォローの実態の把握 |
| 3. 現状と課題を整理 | 課題を「顧客対応」「インフラ」「コンテンツ」「イネーブルメント」に | 優先課題の合意 |
| 4. ワークショップ | 2回のワークショップを開催(3時間・2時間) | 提供価値の優先度の決定、オンボーディング方針の見直しなど |
| 5. 設計図づくり | 成果物の叩き台づくりと、新しいカスタマーサクセス担当者の立ち上げ方針の確認 | 顧客対応のためのアウトカムマップ・各ステージのクリア基準など |
フェーズ1 カスタマーサクセス担当へのヒアリング
カスタマーサクセス業務が属人化し始めている組織では、顧客の状況をどう見て、いつ何をするかという判断基準が、担当者の頭の中にしかありません。担当者が離れる前に言語化しておかなければ、業務を割り振り直してもゼロからのスタートとなります。
Eco-Porkでは、担当者の異動時期が決まっていたので、最初にヒアリングを行い引継ぎのための整理をしました。このタイミングでうまくいかなかった顧客などの失敗のパターンの洗い出しも行なっています。
ヒアリング項目例
- カスタマーサクセス業務は稼働全体の何割で、その中身はどう配分されているか
- 顧客担当の割り当ては、実態としてどう決まっているか
- 顧客とのコミュニケーションチャネルは何か。電話、チャット、訪問など、それぞれどんな場面で使うか
- 契約しているツールは、何をどのように使っているか
- データはどのように取得し、どのように格納しているか
- うまくいっている顧客と、解約した顧客は誰か
- どのような営業方法を行なっているか
- 現在のオンボーディングの標準プロセスと、「立ち上がった」と言える状態の定義
- 更新前と平常時のフォローは、誰が何をしているか
- 社内で動いているAIやアラートの仕組みはどんなものか
ヒアリングから分かったこと例
- 解約の発生パターンは、いくつかの型に分けられた
- 定着している顧客には、社内に担当者がいて、データ入力が日々の業務に組み込まれているという共通点があった
- そこでオンボーディングで「立ち上がった」と言える状態を「プロダクトへの入力が続いているか」で定義した
- 業務の一覧と判断基準を、引き継ぎ資料として文書に残した
ヒアリングへの鈴木さんの感想
「細かく、しっかりと聞いていただけたと思います。横断的にさまざまな案件を手がけてこられたからだと思います。加えて、決めつけすぎずに、柔軟に会話をさせていただけました」
— 株式会社Eco-Pork 取締役営業部長 兼 CFO 鈴木 健人さん
特にスタートアップでは、組織の状況が刻々と変化することを前提に進めていくことが重要だと考えています。
フェーズ2 営業へのヒアリング
カスタマーサクセス業務の引継ぎ内容をまとめ担当者が離れたあとは、既存顧客への対応は営業が担う前提でした。設計図を描く前に、実際に動く人が今どう動いているかを確かめるフェーズです。営業メンバーに個別にヒアリングし、結果を鈴木さんに報告しました。
ヒアリング項目例
- 既存顧客に、どこまで連絡しているか
- 更新前のフォローは、いつ誰がしているか
- 利用状況を、どう見ているか
- 営業のKPIで、既存顧客がどう扱われているか
営業へのヒアリングで分かったこと例
- 既存顧客への能動的なコミュニケーションが不足していた
- 新しいメンバーにカスタマーサクセスをそのまま任せるには、ドメイン知識の壁が大きかった
フェーズ3 現状を4つの領域に整理
ヒアリングと同時に、別途共有いただいたデータと合わせて定量・定性の両面から現状分析を行いました。
課題を「顧客対応」「インフラ」「コンテンツ」「イネーブルメント」の4領域に整理し、議論を重ねた上で顧客対応から取り組むことにしました。この時点で、顧客をティアに分けて接点の型を決める「タッチモデル」と、既存顧客のKPIをリテンション中心に置く案も提案しました。

現状分析の資料より(課題の4領域)

提案内容の資料より
フェーズ4 ワークショップ
より効果的な顧客対応を決めるために、新しく提供するAIプロダクトも含めた提供価値を整理するためのワークショップを行いました。このフェーズでは、カスタマーサクセスが顧客に何を届けるかを言語化します。
単純な機能紹介では価値を感じてもらいにくく、よりユーザー目線に立ってプロダクトの価値を理解する必要があります。また、これを言語化することによって、社内での共通理解にすることができます。

ワークショップの成果物(アウトカムマップ)
ワークショップで分かったことの一部
- データを見て次の行動につなげる支援ができていない
- 経営者が投資判断を下せるまでの伴走ができていない
ここから、カスタマーサクセス活動を通じて、どのように顧客の生産性向上に貢献するのかのステップを決めました。またオンボーディングの方針も、ワークショップ内の議論で、現場にメリットを訴求するだけでなく「これだけはやってほしい」ことを絞り、最初に約束を取り付ける形に調整しています。
ワークショップへの鈴木さんの感想
「実施いただいたワークショップでは、そもそも何の課題をどう解決するのか、という議論を非常によく整理できたと思っています」
— 鈴木 健人さん
フェーズ5 設計図づくりと、再起動の準備
現状分析の結果や、ワークショップをベースにした議論から、次の3つを作成しました。
- アウトカムマップ
- 各ステージのクリア基準
- 既存顧客の状況を管理するシート
各ステージのクリア基準はTSUMAMIが整理し、詳細な指標の設定や顧客別のコミュニケーションプランの調整を設計し、現在はその運用方法をすり合わせながら組織に落とし込んでいる途中です。
組織の見直しにあわせて、新しいカスタマーサクセス担当者がこの設計図をもとに、既存顧客への対応を始めていく予定です。
まとめ:人を増やす前に、カスタマーサクセスが何を解決するかを決める
Eco-Porkの支援で最初にやったのは、ゼロから新しい仕組みをつくることではありませんでした。特定の担当者に任せきった業務や判断基準を言語化し、組織としてカスタマーサクセスが顧客に届けるべき価値を定義しました。バーティカルSaaSなど、ニッチな業界のサービスは、カスタマーサクセスの採用が特に難しく担当者任せになりやすいです。価値の言語化なしでは、属人化を防ぐことはできません。
TSUMAMI CONSULTINGは現在も支援を続けています。組織の見直しにあわせて、ワークショップで定めた価値の流れを、カスタマーサクセスの日々の活動に落とし込んでいきます。
この進め方が合う会社
コンサルティングの進め方は、企業の状況によって変更する必要があります。以下のような課題をお持ちの企業は、今回のような進め方が良いと思います。
- バーティカルSaaSを含むカスタマーサクセスが属人化している組織
- シリーズBの前後で、カスタマーサクセス担当まかせになっている既存顧客への対応を、組織として運用する必要が出てきた会社
- カスタマーサクセス担当者を採用する前に、組織設計を固めたい会社
- 営業がカスタマーサクセスを兼務していて、既存顧客のフォローまで手が回っていない会社


